ピアジェの可逆性reversibilityと
可逆操作reversible operation
山田優一郎(人間発達研究所会員)
第2節は、長文で難解な文章だが、ChatGPTは結論を次のようにまとめた。
可逆性と不可逆性の概念が物理現象や生物の動態において重要であり、特に人間の発達においても大きな役割を果たしている。
グ-グルの英訳では次のようになる。
The concepts of reversibility and irreversibility are important in physical phenomena and the dynamics of living organisms, and in particular, they play a major role in human development.
・irreversibility=不可逆性 ・physical=身体の;物理学の(T91)
・phenomena=現象(T344) ・dynamics=動力学(T1083)
・living organisms=生物 ・in particular=特に(T90)
ここでは、可逆性と不可逆性の重要性を理解して第3節に進む。
第3節 ピアジェにおける可逆性の成立
全文は以下のとおり。
参考資料1
ピアジェは,発生的認識論において, 「熱力学に おける最終的な可逆的均衡は不動であり一つの混滑から結果するに対して,理性の漸進的な可逆的均衡は,知能が発達すればするほど,ますます可動的になる」といっている。
ピアジェによれば,実在は「可逆的ではなくて,デュエムが述べたように, 逆転可能 (renversable)であるに過ぎない」のであって,主体の可逆的な諸操作とこの不可逆的な実在 との調和ないし協同作業, 或いは妥協 として, 時間の構築,云いかえると一つの歴史がつくられるとする。
そして, 彼は人間の発達を貫く基本的法則として,不可逆性から可逆性へ向う不可逆的な移行の法則を強調する。即ち, 知能の発達においても,「すべて原初的な諸行動に固有な不可逆性から,理知的な過程の完成の状 態を示している操作的な可逆性への移行によっで性格づけられる」, 「知能の発 達はすべて不可逆的な行動から可逆的な諸操作への移行に還元される」と。この「知能の全発展は, まさしく可逆的な合成によって構成される最終的な可動的な均衡へ向う単一の方向性を持った(それ故に,それ自身においては不可逆的 な),一つの歩みと解さなければならない」,「諸操作は,心理学的には,諸操作の均衡の形態へ向 うのと同じく,可逆性へ不可逆的に向う傾向」を持っている,「思考が不可逆的な仕方で可逆性を目指す」とする。
かくて,完成の状態へ進んだ可逆的な諸操作は,「知能それ自身を特徴づける可逆性」とか, 「思考においては,系は可逆的である」といわれているが,可逆的な諸操作の特徴としては,「思考のすべての協働や共同操作 が目指す可動的な均衡の状態を構成している」とされる。この際の「新しい諸構築に対して共通に課せられる唯一の規制は相互 性の絆—従って可逆性の絆一によって, 先行の諸構築を自己に結合するということだけであり,これがあらゆる均衡の機能的な条件を構 成する」とも述べている。
彼は,この「より可動的で,より可逆的な,従ってより均衡化された」操作の成立を重要な指標として,それを保存性成立の不可欠な条件とみた。又,可逆性は群性体 (groupernent) を特徴づける条件の一つであり,可逆性の成立は,群性体の成立,つまり操作の論理構造 の成立を示すものとした。彼の場合,行為が内面化 (interiorisation)され,可逆性をもつ体系を かたちづくるに至った思考活動を操作 (operation) と呼んでいる。そして,科学的認識の構造 を構成する操作の四つの基本的特徴としては, 「①操作は内面化することのできる行為である。 ②可逆性をもった行為である。③常にある種の保存を前提としている。④孤立して存在する操作 はない」を挙げている
このように規定された操作が,具体的事象や経験に適用されている段階を具体的操作の段階 (stadedes operations concretes) といい, そこでは群性体構造 (structure de groupernent)を持ち始める。操作が具体的内容を離れ, 命題について仮説演繹操作 による推論が可能になる段階を形式的操作 (operationforrnelle) ないし命題的操作 (operation proposi tionnelle) の段階といい,そこでは束一群構造 (structurede lattice-grouoernent) を持 つとする。それは同一変換 I (transformation identique),逆変換 N (transformation inverse), 相補変換 R (transformation reciproque) と相関変換 C (transformation correlative) の四つの 可能性に応じて変換を処理できるようになるという「 4変換ないし 4元の群 (groupede quatre transformations ou de quaterualite)」を構成する。つまり, ピアジェは可逆性の本質的なニ つの形式として, 逆操作ないし否定操作と, 相補操作ないし対称操作があるとする。
そして, 逆操作による可逆性 (reversibilite・ par inversion) と相補操作による可逆性 (reversibilite par reciprocit6) に基いた諸反応という基本的な可逆操作が実現するのは, 感覚・運動的諸シエマ (schemes sensori-rnoteurs)や前操作的・表象的諸調整 (regulationsrepresentatives oreoperatoires)以来の長期の発達を経た 7~11オの水準においてであるとする。 かかる可逆性の成立について,彼はそれを悉無律 (loide tout ou rien) に従属するとはみな い。「最も基本的な調整からはじまって,限りなくさまざまな程度のもの」を含んでおり,感覚・ 運動的水準 (nivea u sensori-rnoteur) における「原初的な諸リズム (rythrnesinitiaux)から諸 調整 (regulations)へ,諸調整から素朴な可逆性 (ebauchede reversibilite)へ」, そして 7 ~11オ以後にも「可逆性の不断の拡張 (extensionininterrornpue) へ導く連続的進歩 (progres continu)」の過程があるとみている。
そして,「論理ー数学的な諸操作の発達は,まず初めに感 覚・運動的な諸行動の協働から,次いでいかなる直観をも特徴づける合成と可逆性との欠如に伴 うこれら同じ諸行動の直観的な再構築から,そして最後に具体的な,次いで形式的な諸操作の可 逆的な合成から,成り立つ」とする。つまり,直観的調整活動による発達の水準までは可逆性 は成立せず,前操作的・表象的諸調整の水準を経て,具体的操作の水準に至って初めて可逆的思 考 (penseereversible) が可能になるとする。 しかしながら,ビアジェは,「感覚・運動的知能が最も高まった」12カ月から 18カ月頃になると, 逆戻り (retour) やまわり道 (detour)をして元の位置に戻るというやり方で,近傍空間 (espaceにおける「実行的可逆性の注目すべき端初が存在する」といい, ここに「一種のコペ ルニクス的転回 (unesorte de revolution copernicienne)が遂行される」ともいうべき時期を みている。更に,それ以前の段階にも,即ち感覚・運動的諸反応の認知的側面においても, 「初期の事態から終期の事態に至り,またそれを再開するリズム的構造 (structurede rythme)」も あり,次に「それら諸リズムを多くのシェマに則して分化していく多様な調整が生じ」, そこで は「漸進的修正の遡行効果 (effectretroactif des corrections progressives)」によって,「ある 半ー可逆性ないし近似的可逆性」を得ているとみ,最後に「可逆性の端初」が現われると記してい る。但し, これらはすべて表象 (representation) を欠いているので,可逆性の作用も保存性 も不完全であるとする。そして,表象的水準以後, リズム的構造はなくとも,諸調整から内面化 された可逆性ないし操作的可逆性への移行,いいかえれば真の意味での可逆性への移行がみられるとするのである
上記文章をChatGPTは、次のように要約(項目別)した。
「1.熱力学と理性の可逆的均衡の違い
- 熱力学の可逆的均衡は不動で混滑から生じる。
- 理性の可逆的均衡は知能の発達とともに可動的になる。
- 実在と主体の可逆的操作
- 実在は可逆的ではなく逆転可能である。
- 主体の可逆的操作と不可逆的な実在の協調から時間と歴史が構築される。
- 不可逆性から可逆性への移行
- 知能の発達は不可逆的な行動から可逆的な操作への移行で特徴づけられる。
- 最終的な知能の均衡は可逆的な合成に向かう不可逆的な過程である。
- 操作の特徴とその段階
- 操作は内面化可能であり、可逆性を持ち、保存を前提とし、孤立しない。
- 具体的操作の段階では具体的事象や経験に適用される。
- 形式的操作の段階では命題について仮説演繹操作が可能になる。
- 可逆操作の本質と発達段階
- 逆操作と相補操作が可逆性の本質的な形式。
- 基本的な可逆操作は7〜11歳で感覚・運動的シエマや前操作的・表象的諸調整を経て成立。
- 可逆性の成立と発展
- 可逆性は徐々に発展し、感覚・運動的水準から具体的操作の水準へと進む。
- 直観的調整活動では可逆性は成立せず、具体的操作の水準で可逆的思考が可能になる。
- 初期の可逆性の兆候
- 12〜18カ月頃には実行的可逆性の初期の兆候が見られる。
- 感覚・運動的知能の発達に伴い、リズム的構造から漸進的に可逆性が発展する。
- 表象的水準以後の可逆性
- 表象的水準ではリズム的構造がなくても内面化された可逆性への移行が見られる。
この要約をもとに、ピアジェの発生的認識論の主なポイントを理解できるようになります。」
以上がChatGPTの要約である。
考察メモ
ピアジェのいう操作、可逆性、可逆操作について、上記、田中の文章の要約から整理した。
ChatGPT要約 4.操作の意味
「操作は内面化可能であり、可逆性を持ち、保存を前提とし、孤立しない。」(要約)
Operations are internalizable, reversible, conserved, and not isolated
操作Operationという概念に可逆性reversibleは含まれている。
・Internalizable=内部化可能 ・conserved=保存された(T666)
・isolated=孤立した(T712)
資料2
滝沢(1994)によるピアジェのいう操作の意味
操作=「1つの一貫した体系の中で相互に協力しあう可逆的な内面活動」
滝沢武久(1994)「発達靴心理学辞典」(ミネルヴァ書房)
ここでも、操作という概念に可逆性は含まれている。
では、ビアジェの「可逆操作」はどのような意味か。
ChatGPT要約5.可逆操作reversible operationの意味
「逆操作と相補操作が可逆性の本質的な形式」(要約)
上記内容は田中自身が「基本的な可逆操作」の内容として紹介している。
「逆操作による可逆性 (reversibilite par inversion) と相補操作による可逆性 (reversibilite par reciprocit) に基いた諸反応=基本的な可逆操作」
可逆性と相捕性の意味は以下のとおり。(資料4)
可逆性=「元に戻せば同じ物体である」ということの理解
相補性=は「物体のある側面(例えば長さ)が他のある側面(例えば幅)を補う」ということの理解
ChatGPT要約5.可逆操作の成立
「基本的な可逆操作は7〜11歳で成立」(要約)
Basic reversible operations are mastered between ages 7 and 11
7~11歳~具体的操作期(資料3)
資料3~滝沢(1994)による操作の発達は、次のとおり。
「感覚運動期」(0~2才ころ)~操作の起源は、対象に対して働きかける感覚運動的活動。やがてその活動は、可逆性をもつようになると同時に活動同士が供応しあうようになっていく。
「前操作期」(2~7才ころ)の思考~2才をこえる頃からその外的な活動が内面化されるにいたる。ただし、その内面的活動(思考)が、ただちに操作に転化するのではなく、最初はばらばらな状態で働くにすぎない。
「具体的操作期」(6、7才ころ~11、12才頃)の思考~6、7才ころになると、これらの内的活動はまとまり一貫性のある秩序だった体系の中で働くことになる。ものごとを論理的に考える基礎となる。ただし、その思考を具体的対象にしか適応できない。
「形式的操作期」(11、2才~)の思考~具体物から離れて言語的命題だけで思考できる。
資料4-保存の概念【発達心理学】 - 心理学.com (hatenablog.com)
保存の概念とは、「あるモノの見た目、外見が変わっても、そのモノの重さや数量は変化しない」ということを表すものである。
ピアジェ の認知発達段階の第3段階である具体的操作期の子ども(7~11歳)は、この保存の概念を理解することが可能である。 しかし、前操作期(2~7歳)の子どもは対象物の見かけによって思考が左右される直感的思考を特徴とするために、保存の概念を理解しているかどうかをテストする保存課題に正答することができない。そのため、例えば「長さの長いビーカーに入った水を別の長さの短いビーカーに入れたら水の量はどうなるか」という問いに対して「水の量が少なくなった」と答えてしまう。
これは、「ビーカーの長さ」という見かけの情報に思考が左右されてしまったために生じると考えられている。具体的操作期に入り、論理的な思考が可能になると保存の概念を獲得できる。また、保存の概念を理解するためには、可逆性、相補性、同一性を理解できるようになるからであるとされている
可逆性とは、「元に戻せば同じ物体である」ということを表し、相補性は「物体のある側面(例えば長さ)が他のある側面(例えば幅)を補う」ということを、そして同一性は「その物体から何かを取り除いたり付け加えたりしていないので同じである」ということを表している。
とりあえず、以上の予備知識をもってコマを次にすすめる。
次回は、第4節 連続的進歩によって可逆性は成立するか。