乳児前期(感覚の階層)第3段階(5ケ月)の交流の手段について加筆
山田優一郎(人間発達研究所会員)
はじめに
田中(1987)1)は、4ケ月頃に新しい発達の原動力が発生するとした。本ブログで説明してきた新しい発達の原動力は、以下のとおりである。(再掲)
➊新しい発達の原動力は、各階層とも第2段階の後期に発生する。➋新しい発達の原動力は、第3段階への移行をひきおこす。❸各階層とも第3段階において、新しい交流の手段が獲得される。➍新しい交流の手段は、次の階層において主要な交流手段となって発達の全過程を主導する。
上記説明に照らして「選択的微笑」の誕生と、その後の展開をみていこう。
➊生後第1の新しい発達の原動力は、「選択的微笑」のきざしとして第2段階の後半、4ケ月頃に対称性の「破れ」として発生する。
➋「選択的微笑」のきざしを原動力として第3段階への移行が引き起こされる。「選択的微笑」は、第3段階(5ケ月頃から)充実期を迎える。
➌他者を選択できる力によって、母親を選択することが可能となり、微笑みを中心にした母親との交流が可能となる。
➍母親との交流は、不安をもつようなものを見た時や空腹などの内部欲求などでおこる情動の表現を多様化(6ケ月頃)させる。※1)そして、欲求を満足させるための母親(大人)の対応をうまく引き出せるようになる。ワロンは、4ケ月からはじまり「6ケ月を頂点」とし、1才前までを情動の段階とした。※2)
➎したがって、乳児前期(感覚の階層)第3段階において乳児はふたつの交流の手段を獲得する。「微笑み交流」と「情動交流」である。
➏「微笑み-情動交流」によって、母親との心理的一体感が育まれる。
➐第3段階において獲得される大人との「微笑み-情動交流」は、次の階層(認知の階層)において主要な交流手段となって発達の全過程を主導する。
加藤(2008)によれば、情動は、外界との交渉を司る感覚-運動系(認知など)とは別の系に属し、もっぱら身体内部の変化を中心とする活動に根ざすとされている。※3)
したがって、情動交流は認知の系とは別の系の発達をもたらすことが予想される。
情動~感情の中でも、怒り、恐れ、喜び、悲しみのように比較的急激で一時的なものをさす。(「発達心理学辞典」ミネルヴァ書房).上西(2005)は、子ともは不安をもつようなものを見た時や内部欲求に対して自動的に対応できないような時、情動がおこるとしている。
「微笑み-情動交流」~他者を選択できる時期から始まる大人との微笑み・表情・発声・泣き・笑い・ふるえ・緊張などによる交流。
※1)2)上西知子(2005)H・ワロンの子どものは発達段階と「私という意識の形成」.北海道大学大学院教育学研究科紀要96号
※3)加藤義信(2008)「発生的視点からみた情動と認知の関係~アンリ・ワロンの発達思想を手がかりに」.現代とエスプリ494号.
⑩-1上記項目修正済みです。
障害児教育に関わる皆さんへ資料提供
「他者の意図理解、共同注意のはじまり、三項関係の成立といった生後一年目の終りに現れる認知発達上の大きな変化も、養育者との情動交流の基礎を欠いては成り立たないことは明らかである。」( 加藤義信.2008.「発生的視点からみた情動と認知の関係~アンリ・ワロンの発達思想を手がかりに」.現代とエスプリ494号)
「情動的に共感される経験と情動共有経験の乏しさ(質量の不足)は、ASD 児がさまざまな発達能力を形成する阻害要因となっている。」(別府 哲.2023 「発達を情動から考える~自閉スペクトラム症を手がかりに」.臨床心理学第23巻第5号)
階層と段階の理論の中に情動を組み入れることで激しい「自傷」を繰り返す人たちのことを発達的に理解するヒントがみつかるのかもしれない。よかったら、次の動画(内容紹介)も参考にしてください。
強度行動障害の息子…受け入れ施設が見つからない 両親の苦悩【報道特集】|ニフティニュース (nifty.com)
自閉スペクトラム症の息子 自傷行為に悩む母親の「届かぬ声」~事件から見えてきたもの|NHK事件記者取材note
※読んでいただいた皆さんへ。
情動交流は何をうみだすのか、時間をかけて検討します。次回UPは、少し遅くなります。考察の途中で上記投稿も修正の可能性があります。なお、⑩-1は、上記の内容に修正済みです。