発達保障をめざす理論と実践応援プロジェクト

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階層と段階の視点⑩-1 発達における階層の発見で何がわかったのか~「生後第1の新しい発達の原動力」

 

「生後第1の新しい発達の原動力」を対  称性の原理で説明してみた(第3稿)

                       

                   山田優一郎(人間発達研究所会員)                

 

「私たちが法則を発見できるのは、自然界に対称性があるからだが、それだけでなく、自然のもつ階層性のおかげである。」

(板東昌子1996「物理と対称性」みすず書房

 

 ーーー自然現象が、対称性を含む理論によって説明できれば、その説明はもっと満足のいくものになると考えられた。そうすれば、その理論は自然についてさらに奥深い真実を明らかにするだろう。理論そのものが、さらに信頼のおけるものになるはずである。

 レオン・レーダーマン、クリストファー・ヒル小林茂樹訳(2008)「対称性~レーダーマンが語る量子から宇宙まで」.白揚社

 

 自然界に階層と対称性が存在するおかげで、「階層-段階理論」における新しい発達の原動力は次のように説明できる。

 

 新しい発達の原動力は、各階層の第2段階の対称性(対対称)の発生にはじまり、その段階の終りに生じる対称性の「破れ」による新しい発達の力として誕生する。

 

 つまり、田中(1987)1)によって発見された「新しい発達の原動力」は、階層と対称性の原理によって説明可能である。

 

 本ブログで説明してきた新しい発達の原動力は、次のようなものであった。

➊新しい発達の原動力は、各階層とも第2段階の後期に発生する。➋新しい発達の原動力は、第3段階への移行をひきおこす。❸各階層とも第3段階において、新しい交流の手段が獲得される。➍新しい交流の手段は、次の階層において主要な交流手段となって発達の全過程を主導する。(ブログ「階層と段階の視点」⑮)

※)新しい発達の原動力の発見は、「新しい交通の手段の萌芽」の発見から始まっている。(ブログ読後感想 田中昌人著「人間発達の科学」の「矛盾」について(続き) ~「内」と「外」、新しい発達の原動力への影響)

 

 ここでは、階層と対称性の原理に基づいて「生後第1の新しい発達の原動力」について検討する。

 使用する物理学上の定義は、以下のとおり。物理学でいう「運動」は、子どもの活動であり、「変換」は、子どもに対する回りからの一般的な働きかけである。 

 

定義1 「対称性」2)自然法則の対称性は、ある対象に対してある変換を行った時、その自然法則が変わるか変わらないかであり、変わらない時、その法則は対称性をもっていると言う。

定義2 「対称性の破れ」3)=「対称性が壊れている」「対称ではなくなる」という意味である。

定義3 「並進対称性」4)=空間の並行移動という変換を行っても法則は変わらないことをいう。例)東京で実験をやろうが大阪で実験をやろうが物理の法則は同じ。

 

1.乳児前期(感覚の階層)第2段階(3ケ月~)の対称性

①生後3ケ月頃,どの赤ちゃんにもみられる現象がある。「社会的微笑」といわれるものである。世界中の赤ちゃんが同じことをするというのだから、不思議なことである。きっと、人間の赤ちゃんの内部に何か共通のシステムがあると考えるほかない。「社会的微笑」とは何か。ドイツの医者テオドール・ヘルブルッケ5)の記述は次のようになっている。

 

「社会的微笑」

 今やその微笑みは赤ちゃんの行動や態度の中の確固たる要素となってきました。赤ちゃんは、動いている人間の顔を正面からじっとみつめると、いつも笑顔をもって反応することでしょう。見知らない顔であっても、すべてこの月齢(3ケ月)では、赤ちゃんの微笑みをおこすことができましょう。

 

 日本において標準化されている発達検査の内容は次のとおり。

 

「微笑みかけ」6)(2ケ月越~3ケ月)~検査者などに対して、自発的に微笑みかける。

 

 要するに誰に対しても微笑むのである。では、社会的微笑みを可能ならしめているもの、その背後にある力は何なのだろうか。田中(1980)7)は、外界の刺激を「線」的に受け止めることができる力とした。たしかに、誰に対しても微笑むのは、自分の目と大人の目を線でつなぐ力を必要としている。外の世界の刺激と線でつながる力は、「がらがら」を一方の目尻から他方の目尻まで眼球を動かしての追視を可能にする。8)結果、赤ちゃんは、自力で見ることができる範囲をひろげ、回りの世界を知ることになる。知る範囲が広がれば広がるほど「刺激-見る」活動は、強化されていく。

 

 ②さて、「誰にたいしても、自発的に微笑む」という法則は、一般的な働きかけ(変換)に対してかわらないのであるから対称性があるといえる。(定義1)

 図にすると図1のようになる。                  

                  図1

                  

 定義1の法則は、空間を選ばない。したがって定理3の並進対称性があるといえる。しかし、赤ちゃんが生きて活動している限り、いつか対称性は「破れ」、新しい力が誕生する。すなわち、「破れ」によって、s→a(他者多数)の法則でない別の法則が働く。

 

 2.乳児前期(感覚の階層)第3段階(5ケ月)の対称性

①5ケ月になると赤ちゃんの微笑みは、次のように変化する。

 ―――母親や普段親しく接してくれる人には声をだして笑いかけるが、見慣れない人には、じ-っと見つめるなど「選択的微笑」になってくる。9)

 それまで色々な人に笑顔を見せていた赤ちゃんの微笑みが様がわりする。つまり、笑顔を見せる人を自分の意思で選択するようになる。

 

 ここでも「選択的微笑」を可能ならしめているもの、その背後にあるものを探る必要がある。田中(1980)は、外界の刺激を「面」的に受け止めることができる力だとした。  たしかに、人の顔を「面」的に受け止めることができないと他者を選択できない。「面」的に受け止めているからこそ「イナイナバー」を楽しめる。

 

②5ケ月になり、乳児の「誰にたいしても、自発的に微笑む」という法則は、すっかり、かわり「選択して微笑む」へと変化した。(図2)

                 図2

            


 「人を選択して微笑む」という法則は、一般的な働きかけ(変換)に対してかわらないのであるから対称性があるといえる。(定義1)また、「選択して微笑む」という法則は空間を選ばない。したがって定理3の並進対称性があるといえる。

 

③田中(1988)10)は、4ケ月頃に新しい発達の原動力が発生するとした。本ブログで説明してきた新しい発達の原動力は、以下のとおりであった。(再掲)

 

 ➊新しい発達の原動力は、各階層とも第2段階の後期に発生する。➋新しい発達の原動力は、第3段階への移行をひきおこす。❸各階層とも第3段階において、新しい交流の手が獲得される。➍新しい交流の手段は、次の階層において主要な交流手段となって発達の全過程を主導する。

 

 上記説明に照らして「選択的微笑」の誕生と、その後の展開をみていこう。

➊生後第1の新しい発達の原動力は、「選択的微笑」のきざしとして第2段階の後半、4ケ月頃に対称性の「破れ」として発生する。

➋「選択的微笑」のきざしを原動力として第3段階への移行が引き起こされる。「選択的微笑」は、第3段階(5ケ月頃~)において花を開かせる。

➌他者を選択できる力によって、母親を選択することが可能となり、微笑みを中心にした母親との交流がはじまる。母親との微笑み交流は、母親との心理的一体感を育む。

➍第3段階において獲得された交流の手段、大人との「微笑み交流」は、次の階層において主要な交流手段となって発達の全過程を主導する。

 

 ここまでみてきたように「微笑み交流」への道を開く、生後第1の新しい発達の原動力は、子どもの自身の内なる活動(物理の運動)によって、対称性の「破れ」として、自然の摂理として発生する。

※「微笑み交流」~他者を選択できる時期から始まる大人との微笑み・表情・発声などによる交流

 

     一方、ヴィゴツキ-(2014)11)は、乳児の意識に生じる最初のものを母親との「始原われわれ」意識とした。そして、母親との「始原われわれ」意識こそ乳児期の「新形成物」であり、その後の発達の出発点になるとした。大きくなって、自分がわかってからの「私」を含む普通の「われわれ」ではなく、もっと前の「始原われわれ」という意識である。ヴィゴツキ-は、ドイツ語の文献の中からぴったりの表現をみつけたとして「始原われわれ」意識と命名した。大阪弁でいうと「始原わたしら」だろうか。わたしは、それよりも「わたしらツレ」意識と表現したほうがぴったりかなと思うのだがどうだろう。「ツレ」をつけることで運命共同体感が加わるからである。

※新形成物=「それぞれの年齢段階の発達の全過程を先導し、子どの全人格を新しい基礎のもとに再編成する基本的で中心的な新形成物」12)

 

 何もないところからは、何の意識も生まれない。「階層-段階理論」の乳児前期第3段階に獲得される母親との微笑み、表情、発声などによる交流活動こそが母親と「始原われわれ」意識を育む母体だといえる。みてきたように田中は、新しい発達の原動力の発生を4ケ月頃とした。そして、第3段階(5ケ月~)で獲得される新しい交流の手段、微笑み交流は、次の階層、ことばによる交流がはじまるまでの発達の全過程を主導する。ヴィゴツキ-もまた、乳児のはじめての意識、「始原われわれ」意識を乳児期の新形成物とし、乳児期の発達の全過程を先導すると考えた。「始原われわれ」意識を育むのは、母親との微笑み交流なのであり、けっきょく、ふたりの天才は、同じ発見をしていたのかもしれない。

 

④ところで、ヴィゴツキ-は、次のような実験を紹介している。13)

1.遠くにある世界は、乳児にとっては存在しないかのようです。モノそのものは、子どもから遠ざかるにしたがって、情動的誘因力をうしなっていきます。

2.しかし、この力は、モノの隣に、モノのすぐ近くに、モノと同じ視界に人間が現れるや否や、以前のような強さをとり戻します。

 

 手が届かず離れたところにあっても、人のそばにあるモノは、子どもの近くにあり自分自身の努力によって、手にいれられるモノとまったく同様の情動的動機を喚起する力があることを実験結果は物語っている。

 この実験において、遠くのモノにも情動的願望が子どもにわきおこるのは、心理的共同体、つまり、「始原われわれ」意識の条件下にほかならないとヴィゴツキ-は説明する。したがって、子どもが外界の手が届かない距離にあるモノを知っていくためには、「始原われわれ」意識が育つことが必要であり、「始原われわれ」意識を育む、乳児前期第3段階における「微笑み交流」もまた必要不可欠なものだといえる。

 以上によって、赤ちゃんは「微笑み交流」と、そこから生まれる母親との「始原われわれ」意識のおかげで、手の届かない遠いところにあるモノでも知ることができる仕組みになっていることがわかる。

 

3.次の新しい階層(認知の階層)第1段階(7ケ月~)の対称性

①田中(1987)14によれば、乳児後期の第1の段階は、7ケ月頃から始まる。この時期に世界中の子どもたちにみられる反応がある。いわゆる「人見知り」である。人見知りは、乳児にみられる見知らぬ人に対する拒否反応のことである。15人生において、はじめての積極的拒否がはじまる。いつでも、どこでも、いつもの顔と見知らぬ人を瞬時に判別できるのであるから、外の世界への認知は相当進んできた証であり、「人見知り」前とは、一線を画する大きな変化である。認知とは、外の世界を認識することであり、ここから、ことばの認識へと発達し、思考の発達へとつながる。したがって、7ケ月の「人見知り」は、大人の思考への飛躍の第一歩だといえる。

※「認知」~外界を認識すること(「広辞苑岩波書店 

 

 田中(1980)は、この年齢期を外界と一つの結び目をつくって外界認知をひろげていく時期とした。堀江(1979)16) は、見慣れた大人を見つけると「ア~」といってよびかけますが、見知らぬ人だと無言、と記録している。認知の階層第1段階の乳児は、堀江(1979)の記録にあるように選んだヒトに対し積極的に関わる。モノとはどうか。他者を一瞬で峻別できる力は、周囲のモノにたいする認知も進める。7~8ケ月の乳児は「おもちゃを詳しく眺めるために、喜んで両手で物を受け取り、それをまわしたり、向きをかえたり。」17)「物をひっくりかえす。ひっぱる。うちつける。」18)

 選んだ人、モノと積極的に、そして一方的につながるので、赤ちゃんに開かれているチャンネルはひとつである。

 乳児は、開かれているチャンネルを結び目に全力をあげて外界とつながり、周囲の事物への認知をひろげていく。ピアジェは、興味ある結果を持続させるのが目的で繰り返しなされる様を「第2次循環反応」19)と名づけた。ビアジェのいう「第2次循環反応」期は、4~8ケ月20)であり、「階層-段階理論」の新階層の第1段階(7~8ケ月)は循環反応期にあたる。

 

②s=外界の「個」を選ぶ主体としての赤ちゃん、a=選ばれる「個」としての大人、p=選ばれる「個」としてのモノとしたとき、外界とひとつの結び目をつくり、一方向、一方的につながっていく7ケ月頃からの赤ちゃんの活動は、図3のようになる。(図3)

                    図3

                 

 上記、s主体(赤ちゃん)、外界のa人、pモノとの間には、ひとつの結び目をつくって、一方的につながっていくという法則がが存在し(定理1)、その法則の発揮は、空間を選ばない。したがって定理3の並進対称性があるといえる。

  ここまでの対称性の変化は図4のようになる。

                        図4

 人間の発達における階層の存在と対称性の原理は、各階層とも第2段階から次の対称性が発生することを明らかにしている。したがって、乳児後期第1段階の対称性は、最終形であり、以後微笑み系における「破れ」は生じない。つまり、上記乳児後期第1段階のsーa・pの対称性は永遠に維持される。

 

 「対称性とは、変換に対する物体または系の不変性である。」(レオン・レーダーマン)21)

 

 対称性のもつ不変性のおかげで、わたしたちはその後も興味ある人・モノをみつけることができている。そして、第2段階において発生する対称性(対対称)が次の主役として登場する。

 

 さて、以上によってここまで獲得してきた産物は、不可逆的な発達の力として確定する。もちろん、「微笑み交流」も、不可逆的な交流手段として保存される。(図4)私などは、今でも話しことばによる交流がはじまる前の、または合間の交流手段として活用している。

※)追記~乳児第1段階の対称性が生涯にわたって維持されるということは、別の角度から冷静にみた時、深刻な問題を提供する。外の世界に一方的に一方向で働きかける事物が自分の体の一部(モノ)にに固定され、そこから得られる感覚(コト)に刺激を求める活動が習慣化した時、その活動は生涯わたって維持されることになるからである。同じように特定のモノやコトに対する強烈なこだわりについても、モノやコト自体は変化することがあっても、一方向でかかわる力は生涯維持される。

 上記説明によって、「強度行動障害」についても、その一部は発達論として、つまり誰もが通ってきた共通の発達のすじ道の中でおきていることとして説明することが可能となる。乳児期第1段階の対称性が「破れ」ないことの証明により、どんな激しい行動障害もその一部は、普遍的な発達の中に位置づけことができるように思われる。しかし、このままは、「強度行動障害」を解釈したにすぎない。上記理解の上に立って環境を整える何かを引き出す必要がある。

 

4.胎児期の対称性

①前述のように自然界に階層と対称性の原理によって、これまでに明らかになっていることは次のようなことである。

 

 新しい発達の原動力は、各階層の第2段階の対称性(対対称)の発生にはじまり、その段階の終りに生じる対称性の「破れ」による新しい発達の力として誕生する。

 

 田中(1987)は、人は反射を獲得して出生するとした。田中のいう反射は、原始反射のことである。原始反射とは何か。

 原始反射とは、赤ちゃんにみられる特定の条件で起こる刺激反応のことである。22原始反射の始まりは、妊娠5ケ月頃からとされている。(松田2024)

 

 上記説明から原始反射は、「刺激-反応」の対であり、はじまったばかりの原始反射の反応は局所的であるから「刺激-点反応」になることが予想される。(図5)また、原始反射は刺激―反応という対対称の発生であることから、階層と対称性の原理によれば、妊娠5ケ月頃は胎児期の第2段階にあたることが推定できる。    

                 図5 

             

                                           

 しかし、赤ちゃんが活動している限り、この法則は、やがて「破れ」て次の法則へ変化する。

 

②堀江(1979)23)によれば、胎児期の次の区切りは、妊娠8ケ月である。なぜ、ここが区切りになるのか、妊娠8月になると胎児は、1500㌘くらいの重さになり、9ケ月末になると、ほぼ「完成した赤ちゃんの状態」(堀江1979)になる。完成した赤ちゃんの状態にむかって質的転換を遂げる月が妊娠8ケ月頃なのである。妊娠中毒症がおこりやすい時期としても知られていて母体の負担も質的に変化する。この時期に反射活動も完成した赤ちゃんの状態にむかって、ギアチェンジが必要となる。すなわち、全身で反応するために「刺激――面反応」へと変化する必要に迫られる。(図6)

                  図6

               

 こうして、どの赤ちゃんも原始反射を充実させてこの世に誕生する。ちなみに、原始反射の形の上での対称性は古くから知られていて、吉田(1994)24)は、原始反射に左右差がある時は、部分的な運動機能の異常が疑われるとしている。

※田中(1980)は、胎児期の階層を第1段階(胎齢8週~)、第2段階(胎齢16週~)、第3段階(胎齢26週~)としている。

 

5.乳児前期(感覚の階層)第1段階(1ケ月頃~)の対称性

 原始反射の中枢は、大脳皮質よりも下位の脳幹及び脊髄である。やがて、大脳皮質が成熟発達してくると自発運動が原始反射にとってかわるようになる。(吉田1994)

 この時期の赤ちゃんにはどのような特徴があるのか。ピアジェは、「親指を吸う」という行動(1ケ月~)に注目し反射活動とは区別される全く新しい獲得性の行動の現れとした。25一方、田中26)はガラガラや鐘などを鳴らすと身動きをやめる行為をこの年齢期(1ケ月~)の特徴とした。音によって身動きをとめる行為は、原始反射にはないのであるから、これも皮質性の活動だといえる。なんと、「階層-段階理論」の乳児期の階層のはじまり(生後1ケ月)は、脳幹・脊髄を中枢とする反射から、大脳皮質性の活動への質的転換だったのである。図にすると次のようになる。

                 図7

             

 さて、これらの行為の背後にあるもの、これらの行為を可能ならしめている力は何なのだろうか。田中は、外界の刺激を「点」的にうけとめて可逆交通する力とした。たしかに親指吸いやガラガラなど少なくとも一点からの刺激を受け止める力がないと指吸いも、音で身動きをとめることも出きようがない

 ともあれ、赤ちゃんは、脳幹・脊髄を中枢とする反射から脱し、大脳皮質を中枢とする刺激-自発運動(吉田1994)を繰り返しながら、次の段階へ向っていく

 運動機能は第2段階までの間に次のように発達する。座位を獲得し、両手で世界を操るための輝かしい第一歩だといえる。(表1)

                  表1

 

0 ~ 1ケ月

3~4ケ月        

座位

頭をたれる 

頭を直立 安定+

腹臥位

床に頬をつける

肘支持 頭上げ+

 

 

両脚をのばす+

手・指

両手とも握る

両手を開く+ 両手をふれあわす+

 

すぐ落とす

つかんで離さぬ+ 自発的につかむ+

 

 

両手にもつ+    片手でふりならす+

出典:嶋津峯眞監修生澤雅夫編集者代表(2003)「新版K式発達検査法」.ナカニシヤ

 

 ここまでの対称性の変化は次のようになる。(図8)

                 図8

 

 図8の乳児期第1段階の対称性は、最終形であり、以後、反射系における「破れ」は生じない。次の段階から新しく、対称性(対対称)が発生するからである。したがって、大脳皮質-自発運動の対称性は永遠に維持される。おかげで、わたしたちは、今でも運動能力を高め、維持していける仕組みになっている。結果、ここまでに獲得された表1の産物は不可逆的な力として確定する。

 

 新しい発達の原動力とは、次のようなものであった。

 ➊新しい発達の原動力は、各階層とも第2段階の後期に発生する。➋新しい発達の原動力は、第3段階への移行をひきおこす。❸各階層とも第3段階において、新しい交流の手段が獲得される。➍新しい交流の手段は、次の階層において主要な交流手段となって発達の全過程を主導する。

     

 胎児期第2段階においては、上記「新しい」がつく原動力は発生しない。図5の刺激-点反応という活動に他者と交流する要素は含まれていない。なぜなのか。胎児期第3段階において、新しい交流の手段を必要としないからであり、それが自然の姿だからだといえる。自然界の一部として説明できる人間の発達は、必要な階層にだけ「新しい」がつく発達の原動力を発生させる。なお第3段階への移行は、「新しい」がつかない通常の原動力によってひきおこされる。

 ちなみに「新しい」がつく発達の原動力は、成人までの間に4回発生することが田中によって発見されている。(表2)

                表2

                

6.以上の手続きと考察によって導かれる可逆操作の基本操作、媒介、産物は以下のようになる。(表3)

            表3 可逆操作による発達の階層と段階

備考

 可逆操作は、人が当該発達年齢期において、外の世界へ働きかけ、産物をとりいれる際の中心となる活動のカテゴリーである。上記表の可逆操作は、年齢期ごとに知的発達の水準である基本操作、基本操作の媒介となる活動、活動によって獲得される産物が抽出されている。基本操作は、媒介と産物の間を可逆し、循環しながら、自己発達を遂げる。

 田中(1987)は、人が大人になるまでの間に可逆操作の単位が高次化する5つの階層((hierarchy)が認められるとした。各階層には操作変数が1から3まで発展的に増大する3つの段階(stage) がある。(表は、その一部)なお、可逆操作力とは、表の基本操作力のことであり、可逆操作関係とは、その時期の媒介活動において必然となる人間関係のことである。

参照

①「基本操作」~「外界の世界をとり入れ、新しい活動をつくりだし、それを自らの内面にとりこんでいく際の基本操作」(田中昌人「人間発達研究所通信(6)31.15」)

②「媒介」~「媒介性と同時に直接性を含んでいないものは、天にも自然にも、精神にもおよそどこにも存在しない」(ヘーゲル倫理学」第1巻)
③「産物」~「人間は自然や人間社会・・・に働きかけ、新しい活動や産物を創出しつつ自分の本性を発達させていく」(田中昌人「人間発達の科学」)                                           

④「自発運動」~吉田(1994)は、大脳皮質か成熟、発達してきたことによる大脳皮質を中枢とする運動を「自発運動」としている。「発達心理学辞典」.ミネルヴァ書                                             ⑤「微笑み交流」~他者を選択できる時期から始まる大人との微笑み・表情・発声などによる交流                                  ⑥「認知」~外界を知ること(「広辞苑岩波書店、「発達心理学辞典」ミネルヴァ書房)                    ⑦「①の目安」出典~嶋津峯眞監修生澤雅夫編集者代表(2003)「新版K式発達検査法」.ナカニシヤ

 

7.まとめ

①前述のように物理学は、自然現象を学問の対象としている。人間も、自然の一部であり、人間の発達も、物理学が明らかにしている一般法則によって説明可能である。ここでは、田中(1987)が発見した「生後第1の新しい発達の原動力」の発生を対称性の「破れ」によって説明した。

 

②「生後第1の新しい発達の原動力」が次の階層で発達を主導する力になっているかについて検討した。対称性の展開図は、4ケ月に発生した「選択的微笑」のきざしは、次の階層まで保存されていることを示している。(図4)「微笑み交流」として結実した「生後第1の発達の原動力」は、次の階層において主要な交流手段となって発達の全過程を主導することになる。

 

③乳児前期(感覚の階層)の第1段階の対称性を明らかにするために胎児期からの対称性について検討した。

 

④①~③の手続きによって、乳児前期(感覚の階層)と後期(認知の階層)第1段階の可逆操作の基本操作、媒介、産物を表3のように仮定した。

 

[引用文献]

 1)田中昌人(1987)「人間発達の理論」.青木書店

2)3)4) 小林誠(2009)ノーベル受賞記念講演~対称性の破れとは.「学術の動向」第14号6号

5)デオドール・ヘンブルッケ他著監訳村地俊二訳福島正和(1980)「赤ちゃんの発達」.同朋舎

6)嶋津峯眞監修生澤雅夫編集者代表(2003)「新版K式発達検査法」.ナカニシヤ

7)田中昌人(1980)「人間発達の科学」.青木書店

8)前掲5)

9)河原紀子監修・執筆(2011)「子どもの発達と保育の本~0才~6才」.学研

10)前掲7)

11)ヴィゴツキ-著柴田義松他訳(2014)「新児童心理学講義」.新読書社

12)中村和夫著(2010)「ヴィゴツキ-に学ぶ子どもの想像と人格の発達」.福村出版

13)前掲11)

14)田中昌人(1987)「人間発達の理論」.青木書店

15)日上耕司(1994)「発達心理学辞典」.ミネルヴァ書房 

16)堀江重信編著(1979)「赤ちゃん~妊娠・出産・育児の百科」.新日本出版社

17) デオドール・ヘンブルッケ他著監訳村地俊二訳福島正和(1980)「赤ちゃんの発達」.同朋舎

18) 前掲16)

19) ピアジェ著谷村覚・浜田寿美男訳(1978)「知能の誕生」.ミネルヴァ書房

20)芳賀純(1994)「発達心理学辞典」.ミネルヴァ書房

21)レオン・レーダーマン、クリストファー・ヒル小林茂樹著(2008)「対称性」白揚社

22)松田玲子(2024)【助産師監修】原始反射とは? 種類と消える時期について|ベビーカレンダー (baby-calendar.jp)

23)前掲16)

24)吉田菜穂子(1994)「発達心理学辞典」.ミネルヴァ書房

25)ピアジェ著谷村覚・浜田寿美男訳(1978)「知能の誕生」.ミネルヴァ書房

26)前掲7)

 

資料

 2022年までに確定すことができた可逆操作の試案は、以下のとおり。

     

    表 可逆操作による発達の階層と段階(認識・思考の階層)

備考

 基本操作によって、今何が大切な時期なのかを知ることができる。媒介活動を知ることによって、何をしたらいいのかがわかる。また、産物によって、子どもが、今もっている可逆操作を発揮できているかどうかを知ることができる。

参照

①「基本操作」~「外界の世界をとり入れ、新しい活動をつくりだし、それを自らの内面にとりこんでいく際の基本操作」(田中昌人「人間発達研究所通信(6)31.15」)

➁「媒介」~「媒介性と同時に直接性を含んでいないものは、天にも自然にも、精神にもおよそどこにも存在しない」(ヘーゲル倫理学」第1巻)

③「産物」~「人間は自然や人間社会・・・に働きかけ、新しい活動や産物を創出しつつ自分の本性を発達させていく」(田中昌人「人間発達の科学」)                                                                  ④「認識」~ものごとをはっきりととらえ、理解して見分け、判断すること。                                  ⑤「思考」~論理的に考えること。                                                          ⑥「概念」~物事の概括的な意味内容のこと。概念は言語によって表現される。                                              ⑥「①の目安」出典~嶋津峯眞監修生澤雅夫編集者代表(2003)「新版K式発達検査法」.ナカニシヤ

 

経過

①資料は、過去ブログのものに若干の修正を加えました。上記表では、田中オリジナルの造語は避け、一般的に使用されていることばにしました。そうすることで、すでにピアジェによって定義されている、「可逆操作」(reversible operation)との違いが誰にでもわかるようになるからです。

 

②また今回、これからの若い方たちが英訳しようとした時、今までの説明では大変苦労することに気づきました。たとえば、ここで乳児期後期の階層名にしている「認知」は、世界の共通語であり、Cognitionと訳されます。ところが、連結はLinking と出ます。階層は発達の単位であり、Linking を発達の単位として外国の方たちに英語で説明するのには大変な苦労がいるのではないでしょうか。ちなみに、「示性数」を、グーグルは、Figure of merit と訳します。「功績の数字」という意味です。「示性数1段階」は、Figure of merit 1 stageとなります。説明を相当工夫しないと、もう何が何だかの世界になってしまいます。そのため、今回からできるだけ多くの方に伝わることばにしました。そして、田中の業績を世界に伝えるできるよう英訳しやすいものにしました。

 

③今回から、「階層-段階理論」関連の資料をはじめて読まれる方がいることを念頭に、可逆操作、可逆操作力、可逆操作関係は、その都度説明を加えることにしました。私自身が「階層-段階理論」を理解していくためのこの三つの用語の意味が理解できず、どこを調べても出てこず、何十年も苦労してきたからです。可逆操作については、定義(説明)の有無を今だに調査中です。

 

※)読んでいただいた皆さんへ

 乳児期の可逆操作は、私では手がつけられないとずっと考えていました。実践してきた子どもたちが一番重い子でも示性数3段階であり、現実の子どもについて想像できないからです。しかし、ブログ連載のため「人間発達の科学」の可逆操作にかんする記述を調べていく機会があり、その調査の結果は、周辺情報はあるものの可逆操作そのものについての説明は見あたらないというものでした。(詳細は後日ブログでupします。)

 ところが、そこにはジェスチャーゲームのヒントのように「可逆操作とは何か」を考えるヒントが散らばっていたのです。これをヒントにすれば階層と対称性の法則によって、乳児を実践したことがない私でも乳児期の可逆操作に接近できるかもしれないと考えました。

 そのため英語学習のブログを一時中断して、乳児期の可逆操作について考察することにしました。本日のブログは、その結果の報告です。どこかで、リアルな乳児の姿とズレがあるのでは・・・・と不安ですが、皆さんのたたき台として提供いたします。

 残り乳児期後期の第2・3段階を現在考察中です。

英語(単語)学習の記録⑤ Tanaka's Criticism of Piaget's Theory 

 ピアジェ理論は、「記載」(description)なのか。ビアジェは、可逆性の成立を一つの段階の問題として捉えているか。ピアジェの発達理論は、連続説なのか。                                 

   

                    山田優一郎(人間発達研究所会員)                                                                     

 

第4節 連続的進歩によって可逆性は成立するか。

全文は以下のとおり。

参考資料

 ピアジエがこの可逆性成立の過程を連続的進歩ないし漸進的構造化の過程においてみていたことは明らかである。即ち, 「労多き構築の経過の中で,それは不可逆的な行動から 始まって,主体が主体自身の諸活動についてなす模索と経験を経た後で,初めて可逆的な諸操作 の域に達する」「漸進的な諸協働と可逆性とによって性格づけ られる連続的な過程 (processuscontinu)の最終的な均衡の形態として現われる」と述べ,「先ず 長い間にわたり不可逆的なままに留まり」「これらの諸操作は長い進展の流れの中で,このように可逆的になる」, 「操作的な可逆性は,ゆっくりとした進展の所産」,「もろもろ な諸調整の漸進的な均衡化が可逆的な合成に到達する」,「諸行為 の漸進的な可逆性によって特性づけられる知能の発達」というよ うに漸進的連続に基く均衡化を強調している。 彼の場合, リズム的諸構造や諸調整において,フィードバック・ループにおけるミクロな秩序 からマクロな秩序が構成される引込み現象を用いてこれを説明すること等はしていない。又,コ ペルニクス的転回といっても,どちらかといえば,長い漸進的な構造化への移行の据野における 労多き過程に位置づけられているとみられる。

  ビアジェの発達認識は,ワロンの「下からの」それに比して. 「上からの」で あると指摘されてきたが,彼の発達認識の基本には,成人の心理構造に対する児童の順応という 必然的性格が仮説としてあることはルシュランらによっても指摘されてきた。 如何にして一定の均衡に必然的に到達するかを示すのに, それを漸進的連続的な社会化していく過程として認識し,児童はその順応に反抗しつつ,不順応性に刺激されなが らも,除々に周囲の成人からの影響が滲み込んでくるとみているのである  尚,ワロンはピアジェの理論が記載であって説明ではないことを厳しく批判してきた一人であ るが,それはやはり妥当性をもつといわざるを得ない。確かにピアジェは発達を環境と主体との同化と調節の働きを基本において認識してきた。 しかし彼 においては,「成長していく可逆性は均衡への歩み」とした上で,この均衡は外部からの撹乱に対する能動的・予期的な補償の活動としてあるとみる。「完全に均衡化された修正の体系」あるいは「自己制御による均衡化の過程である。「知能とは,同化と調節との間の均衡である」ともいっている。確かに彼は可逆 性を単独に用いてはいない。「実行的な可逆性と結合性」とか, 「可逆的で結合的な合成」とか,「諸操作の可逆性と結合性とによって, 全体の不変性を決定す る」といっている。同一性と可逆性との関係についても,メイエルソン (Meyerson, E.) の所論に批判的な吟味を加えた上で,最終的には基本構造に収束するものとしてこれらを認識している。しかし,遂に,具体的同一性を同一性と差異性との弁証法統一において把えることはできていない。又,可逆性の成長の記載はあっても可逆性の発達の説明はないのである。 ビアジェは構造の動的な安定性を保証する変化の,元へ戻る可能性を可逆性とも呼んでおり, 可逆性に一定の内容と高度の安定性を与える基本機制としての位置を与えている。しかし,そこ に至る迄の長い漸進的な過程における安定性,生産性やその逆の性格は,どこまでも顕応と順応 への対抗であって,生成現象に不可欠な可逆性という,或いはそれに匹敵するまとまった構造が 与えられるには至っていない。例えば, リズム構造といい,諸調整という時,それは一定の内容 と安定性や生産性を持ち,相対的に独立した結合性なり可逆性を持った構造がなければ,動的協 同性を示して,より高次のエネルギーなり,新生物を生みだすことはできない筈である。可逆性のない構造が不可逆的な生成を遂げていくことはできないとみられるからである。半ー可逆性或 いは半ー可逆的諸構造等という「半ば均衡化され且つ近似的にのみ補償される」とする不確定な可逆性によって, 人類の進化における重要な遺産である直立二足歩行や話し言葉を各個体発生において獲得させうるとみるのは無理である。書き言葉の獲得による諸構造の変化も直観的調整活動において成し遂げられるとみることは難しい。ヒ゜アジェのいう可逆性の成立期が多くのことを成し遂げることは事実であるが, それが成立し始める 7オまでの生成において成し遂げられている多くのことは,可逆性の成立への移行過程において,事のついでに成されてきたに過ぎないことなのであろうか。又, ピアジェ のいう可逆性の成立の「説明」では,むしろそれ以後の知能の発達の高次化は留まってしまうことになりはしないだろうか。彼の論では,発達退行や老化の説明も困難である。 論者によって異るとはいえ,発達段階とその基本的順序性をとりだすことができ,又, ビアジェのいう可逆性の成立までの幾つかの時期において発達の停滞がみられ易いときがあり,且つその停滞は,即退行に移るのではなく人格発達を進めうること等が認められている。これらの現象 を説明するためには,発達における不可逆性を支える可逆性の継起的存在を認めざるを得ないのではないだろうか。ピアジェも,発生をある構造から別の構造への移行だけでなく,「状態Aから 出発して, Aよりも安定した状態 Bへ到るある型の変換と述べ ている。

 発達が基本的には不可逆的に進んでいることを認めるならば,そのいずれの段階においても,その不可逆性を保障するそれぞれの段階の可逆性の成立がなければならず,その各段階に おける可逆性の成立の困難さ,貧困さ等が発達障害や停滞,退行,老化を合法則的に認識し,且つそこにおける人格発達の開かれた道を明らかにしていくことにもなるのではないだろうか。 ビアジェが,彼のいう可逆性の成立過程だけを本質に迫った唯一つのものであるとしてみるのであるならば,それが成立するまでの過程には可逆性は成立しないとせざるを得ないであろう。 しかし,彼が実在に対して次のように述べていることは重要である。即ち「宇宙に働きかけ操作を及ぽす我々の諸々の可能性を表現している可逆的な諸機構とは反対に,不可逆的な機構は,それら諸々の機構の内奥の諸過程をいい現わし得る我々の諸操作が欠けているが故に,表象され得ないものの尺度段階に位置づけられている」と。 であるならば,ヒ゜ァジェは,発達を実在として,何故そのように認識しないのであろうか。即ち,彼のみる可逆性の尺度段階を相対化し,一つの段階で成立することを認めつつその前後の段階では可逆性等の尺度が変るとするのである。そもそも発達では尺度段階の発展が不可欠である筈である。にもかかわらず,彼は発達においては一つの尺度段階を絶対的なものとみて,それまでの発達過程のすべてをその尺度段階から評定し,半ー可逆性等というカテゴリーを配置している。そのようにするのではなくして, 発達的に原初的であり,且つ内奥になっている諸過程に則した可逆性の尺度段階を発展的に明ら かにしていくことが大切なのではないだろうか。それによって,尺度段階は発展し,不可逆的な 活動を可逆的な操作に変え,二重の生産機制に新しい質をもたらしつつ,その生産機制を不可逆的なものとして位置づけ発展させていく過程を見出していくことができると考える。この方向で 理論的再構成を進めていくことによって, ヒ°アジェのいう可逆性の成立過程の認識もさらに本質的に深まって,普遍的発展過程の中の特殊に位置づくと考える。この道において初めて発達のパ ースペクティヴが拡大され,これまでにヒ°アジェが得てきた結果は限定された認識過程の場合と して自己の内に含みこむような,より全体的•発展的な理論体系が開かれていくであろう。それによって,彼のいう可逆性の成立以前の人格発達との関連や,可逆性成立以後の全体的発達や発達における退行,老化とそこにおける人格発達の理論構成にも道が開けると考える。彼が早くから指摘している, 発達におけるずれに関する敷写しの法則とか, 脱中心化の理論も,そこでいわれている事実に新しい説明ができるようになるであろう。 彼の発達論は,ダーウィン (Darwin,C.) の進化論と同様に発展過程全体を漸進的連続性に帰着させているが,両者の秀れた知見や理論体系の進歩性を認めると共に,共通する問題として, 弁証法的否定なしに系を維持する質の転化や発展可能性,発達の場合には可逆性の不可逆的高次化等が成し遂げられると考えることはできないという点からの批判が必要であろう。

 

 この文章の全文はあまりにも長くChatGPTに要約を拒否された。そのため少しカットした上「上記文章を要約し、5項目にまとめてください」とお願いした。すると、次のように返事がきた。

 

「もちろんです。以下に5つの項目にまとめました。

1.可逆性の成立過程

    • ピアジェは、可逆性の成立を連続的進歩や漸進的構造化の過程と捉えています。不可逆的な行動から始まり、主体の活動を通じて徐々に可逆的な操作に達するとしています。
  1. 漸進的な均衡化
    • ピアジェは、発達過程を漸進的な均衡化として強調しています。彼はリズム的構造やフィードバック・ループを使わず、長い時間をかけて構造が安定化する過程を重視しています。
  2. 批判と限界
    • ピアジェの理論は、発達過程を記述するだけで説明が不足しているとの批判があります。特に、発達の停滞や退行の説明に不十分であり、彼の理論は発達過程全体の理解には限界があると指摘されています。
  3. 不可逆性と可逆性の関係
    • 発達過程は基本的に不可逆的であり、各段階での可逆性の成立が不可欠とされています。ピアジェはこれを一つの段階の問題として捉えていますが、全体的な発展理論には各段階の可逆性の成立が重要です。
  4. 発展的理論体系の必要性
    • 発達理論のパースペクティブを拡大し、より全体的・発展的な理論体系を構築することが求められます。これにより、可逆性の成立以前や以後の発達や退行、老化のプロセスについても包括的に説明できるようになります。」

 

考察メモ

 ここで教材としている田中論文は、1980年のものである。44年たった現在、すでにこれらの批判に対し、ピアジェの側からの反論があり、決着している可能性を否定できない。わたしの手元にひとつだけ、ピアジェ批判に応えた論文がある。ピアジェ研究の第一人者、中垣 啓氏のものである。とりあえず、以下、田中のピアジェ批判に関連するピアジェの側からの反論をいくつかを紹介する。

 

   中垣 啓(2011)「ピァ ジ ェ 発 達 段 階 論の 意 義 と射 程」

    「発 達 心 理 学 研 究」 2011,第 22巻 ,第 4号 ,369−380

 

『はじめに』~ビアジェの理論は「記載」(description)なのか。

答え

→どん な学 問 に お い て も,そ れ が 科 学 とな りうる た め に まず 取 り組 まな けれ ば な ら な い 基 本 的作 業 とい うもの が あ る 。生 物 学 にお い て は生 物 を分 類 し,その 系統関係を 明らか に する 作 業 で あ り,地質学 にお い て は地層 を階層 分 け し,年代順 位 を決 定す る作 叢 で あ る。発 達 心理 学 に お い て 発 達 を段 階 分 け す る こ と は ,生 物 学 にお け る分類 学 ,地質 学 にお け る 層 位学 に 匹 敵 す る基 本 的作 業 で あ り,発達 心理 学が 科学 た りうる た め に 不 可 欠 な 営 み で あ る (Piaget,ユ956 )。 発 達 を段 階 分 けす る こ とに よ っ て,初 め て 事実 の 記載を 超 えた 発達 過程 の 解析 が 可 能 とな る の で あ るか ら,発 達段階は発達心理 学研究に お け る基 本 的 道具 と して の 位 置 を占 めて い る。こ の 根本的観点 を見 失 う と発 達心 理 学 は科学 で あ る こ とを放 棄 し,事実の 記 載 ,一種 の ドキ ュ メ ンタリーに と どまっ てしまうで あ ろ う。

 

『問い』:ピ ア ジ ェ は 知的操作 を 基準 に 知 能の 発達 段 階 を 設 定 した。では、‘’知的操作“ とは 一体 何 で あ ろ う か 。

答え

→知的操作とは 主体 が 対 象に 働 きか けて ,対 象 を分 けた り, ま とめ た り,ある い は ,並べ た り,対応づけた りす る対象変換行為 の 一般 的協応 に 由来 し,将 来的 に 論 理 数 学 的 認識 として 結 晶化 し て い くこ となる行為の 一般 的形 式 で あ っ て ,次の よ うな 条件 を 満 たす もの を い う (Piaget, 1953>。

1) 内化 され た 行為 で あ る こ と,

2行為 と。

内化 さ れ た 行為 が操 作 と な る た め に は ,その 行為 の 結果 を元 に 戻 す 行為 (逆 の 行為) や 行為 に よ っ て もた ら された 効 果 を打 ち消 す行 為 (補償 の 行為 )が常 に存在 して い る こ とが必 要 で あ る 。

3) 何 ら か の 保 存 を前 提 と した 変 換 で あ る こ と,

4) 知 的 操 作 は 全体 構 造 に よ っ て 特徴 づ け られ る こ と

 

『問い』:発達の運続性・不連続性をどうとらえるか。

答え

→知的操作の 発達段 階 は子 どもの 発達 を語る た め に便宜上 設 定す る の で は な く,自然 な 区切りに対応 した もの で ある 。 この 観点 はピ ァ ジ ェ の 発 達段 階基準 の 1 つ で あ る 「全体構 造」 に反映 さ れ て い て ,こ の 意味 で は ピア ジ ェ の 発 達観 を発達 の 不 連続説 とみ なす こ とが で きる 。 しか し,ピ ア ジ ェ の 発達観 を単純な不 連続説 と見 なす こ と は で き な い 。具 体 的操 作 は 感 覚運 動 的 知 能の 獲得物 を表象 の 水 準 に お い て 再 構築 した も の で あ る 。また ,形 式的操作 は具体 的操 作の 獲得物 を二 次 的操 作の 水準 で 再 構 築 した もの で あ る 。こ の よ うに ,ある 段 階の 達 成物 は 前段 階 に お い て 獲得 し た もの の 分化 と統 合に よ る とい う 発達 の 運 続 性 を 絶 え ず 強調 し て い る。 こ の 観 点 は ピ ァジ ェ の 発 達 段 階基 準の 1 つ で あ る 「統合 性 」 に 反 映 さ れ て い る 。し た が っ て ,新 し い 構造 は古い 構 造 か ら抽象 され る再 構築 で あ る とい う観点か ら見 れ ば 発 達は 連続 的 で あ る 。し か し,新 しい 構 造 が 古 い 構 造 に は 還元 し得 な い 創発 的特性を持つとい う観 点か ら見れ ば,発達 は不 連続 的で ある 。 そ れ ゆ え ,ピ ア ジ ェ の 発達観 は発 達 の 速 続 説で も不 連続 説 で も な く,両 者の 対 立 を止 揚 した 弁証 法的 発 達 観で あ る。

 

 そして、中垣は次のようにつけ加えている。

→こ の よ うに ,ピ ア ジ ェ の 発 達段 階論 は「発達 は連続 的か ,不 連 続 的か 」 とい う古 典的問題 に対 して首羅 一貫 した 説 明 を与 え る こ とが で きる (Piaget, 1970/2007 , p.59) の で あ る 。

 

 さて、次回から第5節(「可逆操作の高次化における階層-段階理論」から)を英訳しながら単語の勉強をすることになるのだが、気か重い。うっかりするとピアジェへの誤解をひろげる。 第5節におけるたとえば、

 

ピアジェのように1つの漸進的、連続的進歩の過程とだけはみない」(第5節 田中)

→しかし、みてきたようにピアジェの側は、単純な連続説ではないと主張している。たしかに段階が自然の区切りに依拠しているならば自然界には階層が存在するから、不連続説だともいえる。

 

ピアジェのようにいわば唯一つの『可逆性の成立』」(第5節 田中)

→何度も確かめてきたようにピアジェは、操作の中に可逆性を含めている。したがって「可逆性の成立」を唯一とはしていないのではないだろうか。

 

 ピアジェ批判に応えた先の中垣論文は2011年、田中没後6年のものである。おそらく、第5節におけるピアジェ批判は、妥当するものとそうでないものが混じっている。ゆっくり読み込んでいけば、「たしかにそうだ」と納得できるものと「それはどうか」と判断しかねるものがある。したがって、英語学習以前に第5節をしっかり理解していくためには、相当な前さばきを必要としている。どうしたものか。

 

 

 

英語(単語)学習の記録④ ピアジェの可逆性reversibilityと 可逆操作reversible operation

                                       

  ピアジェの可逆性reversibilityと

可逆操作reversible operation

 

                    山田優一郎(人間発達研究所会員)

 

 第2節は、長文で難解な文章だが、ChatGPTは結論を次のようにまとめた。

 

 可逆性と不可逆性の概念が物理現象や生物の動態において重要であり、特に人間の発達においても大きな役割を果たしている。

 

 グ-グルの英訳では次のようになる。

The concepts of reversibility and irreversibility are important in physical phenomena and the dynamics of living organisms, and in particular, they play a major role in human development.

・irreversibility=不可逆性 ・physical=身体の;物理学の(T91) 

・phenomena=現象(T344) ・dynamics=動力学(T1083) 

・living organisms=生物  ・in particular=特に(T90) 

 

 ここでは、可逆性と不可逆性の重要性を理解して第3節に進む。

 

 第3節 ピアジェにおける可逆性の成立

 全文は以下のとおり。

参考資料1

 ピアジェは,発生的認識論において, 「熱力学に おける最終的な可逆的均衡は不動であり一つの混滑から結果するに対して,理性の漸進的な可逆的均衡は,知能が発達すればするほど,ますます可動的になる」といっている。

 ピアジェによれば,実在は「可逆的ではなくて,デュエムが述べたように, 逆転可能 (renversable)であるに過ぎない」のであって,主体の可逆的な諸操作とこの不可逆的な実在 との調和ないし協同作業, 或いは妥協  として, 時間の構築,云いかえると一つの歴史がつくられるとする。

 そして, 彼は人間の発達を貫く基本的法則として,不可逆性から可逆性へ向う不可逆的な移行の法則を強調する。即ち, 知能の発達においても,「すべて原初的な諸行動に固有な不可逆性から,理知的な過程の完成の状 態を示している操作的な可逆性への移行によっで性格づけられる」, 「知能の発 達はすべて不可逆的な行動から可逆的な諸操作への移行に還元される」と。この「知能の全発展は, まさしく可逆的な合成によって構成される最終的な可動的な均衡へ向う単一の方向性を持った(それ故に,それ自身においては不可逆的 な),一つの歩みと解さなければならない」,「諸操作は,心理学的には,諸操作の均衡の形態へ向 うのと同じく,可逆性へ不可逆的に向う傾向」を持っている,「思考が不可逆的な仕方で可逆性を目指す」とする。

 かくて,完成の状態へ進んだ可逆的な諸操作は,「知能それ自身を特徴づける可逆性」とか, 「思考においては,系は可逆的である」といわれているが,可逆的な諸操作の特徴としては,「思考のすべての協働や共同操作  が目指す可動的な均衡の状態を構成している」とされる。この際の「新しい諸構築に対して共通に課せられる唯一の規制は相互 性の絆—従って可逆性の絆一によって, 先行の諸構築を自己に結合するということだけであり,これがあらゆる均衡の機能的な条件を構 成する」とも述べている。

 彼は,この「より可動的で,より可逆的な,従ってより均衡化された」操作の成立を重要な指標として,それを保存性成立の不可欠な条件とみた。又,可逆性は群性体 (groupernent) を特徴づける条件の一つであり,可逆性の成立は,群性体の成立,つまり操作の論理構造 の成立を示すものとした。彼の場合,行為が内面化 (interiorisation)され,可逆性をもつ体系を かたちづくるに至った思考活動を操作 (operation) と呼んでいる。そして,科学的認識の構造 を構成する操作の四つの基本的特徴としては, 「①操作は内面化することのできる行為である。 ②可逆性をもった行為である。③常にある種の保存を前提としている。④孤立して存在する操作 はない」を挙げている

 このように規定された操作が,具体的事象や経験に適用されている段階を具体的操作の段階 (stadedes operations concretes) といい, そこでは群性体構造 (structure de groupernent)を持ち始める。操作が具体的内容を離れ, 命題について仮説演繹操作 による推論が可能になる段階を形式的操作 (operationforrnelle) ないし命題的操作 (operation proposi tionnelle) の段階といい,そこでは束一群構造 (structurede lattice-grouoernent) を持 つとする。それは同一変換 I (transformation identique),逆変換 N (transformation inverse), 相補変換 R (transformation reciproque) と相関変換 C (transformation correlative) の四つの 可能性に応じて変換を処理できるようになるという「 4変換ないし 4元の群 (groupede quatre transformations ou de quaterualite)」を構成する。つまり, ピアジェは可逆性の本質的なニ つの形式として, 逆操作ないし否定操作と, 相補操作ないし対称操作があるとする。

 そして, 逆操作による可逆性 (reversibilite・ par inversion) と相補操作による可逆性 (reversibilite par reciprocit6) に基いた諸反応という基本的な可逆操作が実現するのは, 感覚・運動的諸シエマ (schemes sensori-rnoteurs)や前操作的・表象的諸調整 (regulationsrepresentatives oreoperatoires)以来の長期の発達を経た 7~11オの水準においてであるとする。 かかる可逆性の成立について,彼はそれを悉無律 (loide tout ou rien) に従属するとはみな い。「最も基本的な調整からはじまって,限りなくさまざまな程度のもの」を含んでおり,感覚・ 運動的水準 (nivea u sensori-rnoteur) における「原初的な諸リズム (rythrnesinitiaux)から諸 調整 (regulations)へ,諸調整から素朴な可逆性 (ebauchede reversibilite)へ」, そして 7 ~11オ以後にも「可逆性の不断の拡張 (extensionininterrornpue) へ導く連続的進歩 (progres continu)」の過程があるとみている。

 そして,「論理ー数学的な諸操作の発達は,まず初めに感 覚・運動的な諸行動の協働から,次いでいかなる直観をも特徴づける合成と可逆性との欠如に伴 うこれら同じ諸行動の直観的な再構築から,そして最後に具体的な,次いで形式的な諸操作の可 逆的な合成から,成り立つ」とする。つまり,直観的調整活動による発達の水準までは可逆性 は成立せず,前操作的・表象的諸調整の水準を経て,具体的操作の水準に至って初めて可逆的思 考 (penseereversible) が可能になるとする。 しかしながら,ビアジェは,「感覚・運動的知能が最も高まった」12カ月から 18カ月頃になると, 逆戻り (retour) やまわり道 (detour)をして元の位置に戻るというやり方で,近傍空間 (espaceにおける「実行的可逆性の注目すべき端初が存在する」といい, ここに「一種のコペ ルニクス的転回 (unesorte de revolution copernicienne)が遂行される」ともいうべき時期を みている。更に,それ以前の段階にも,即ち感覚・運動的諸反応の認知的側面においても, 「初期の事態から終期の事態に至り,またそれを再開するリズム的構造 (structurede rythme)」も あり,次に「それら諸リズムを多くのシェマに則して分化していく多様な調整が生じ」, そこで は「漸進的修正の遡行効果 (effectretroactif des corrections progressives)」によって,「ある 半ー可逆性ないし近似的可逆性」を得ているとみ,最後に「可逆性の端初」が現われると記してい る。但し, これらはすべて表象 (representation) を欠いているので,可逆性の作用も保存性 も不完全であるとする。そして,表象的水準以後, リズム的構造はなくとも,諸調整から内面化 された可逆性ないし操作的可逆性への移行,いいかえれば真の意味での可逆性への移行がみられるとするのである

 上記文章をChatGPTは、次のように要約(項目別)した。

 

「1.熱力学と理性の可逆的均衡の違い

    • 熱力学の可逆的均衡は不動で混滑から生じる。
    • 理性の可逆的均衡は知能の発達とともに可動的になる。
  1. 実在と主体の可逆的操作
    • 実在は可逆的ではなく逆転可能である。
    • 主体の可逆的操作と不可逆的な実在の協調から時間と歴史が構築される。
  2. 不可逆性から可逆性への移行
    • 知能の発達は不可逆的な行動から可逆的な操作への移行で特徴づけられる。
    • 最終的な知能の均衡は可逆的な合成に向かう不可逆的な過程である。
  3. 操作の特徴とその段階
    • 操作は内面化可能であり、可逆性を持ち、保存を前提とし、孤立しない。
    • 具体的操作の段階では具体的事象や経験に適用される。
    • 形式的操作の段階では命題について仮説演繹操作が可能になる。
  4. 可逆操作の本質と発達段階
    • 逆操作と相補操作が可逆性の本質的な形式。
    • 基本的な可逆操作は7〜11歳で感覚・運動的シエマや前操作的・表象的諸調整を経て成立。
  5. 可逆性の成立と発展
    • 可逆性は徐々に発展し、感覚・運動的水準から具体的操作の水準へと進む。
    • 直観的調整活動では可逆性は成立せず、具体的操作の水準で可逆的思考が可能になる。
  6. 初期の可逆性の兆候
    • 12〜18カ月頃には実行的可逆性の初期の兆候が見られる。
    • 感覚・運動的知能の発達に伴い、リズム的構造から漸進的に可逆性が発展する。
  7. 表象的水準以後の可逆性
    • 表象的水準ではリズム的構造がなくても内面化された可逆性への移行が見られる。

 この要約をもとに、ピアジェの発生的認識論の主なポイントを理解できるようになります。」

 

 以上がChatGPTの要約である。

  

考察メモ

 ピアジェのいう操作、可逆性、可逆操作について、上記、田中の文章の要約から整理した。

 

ChatGPT要約 4.操作の意味

「操作は内面化可能であり、可逆性を持ち、保存を前提とし、孤立しない。」(要約)

   Operations are internalizable, reversible, conserved, and not isolated

 

 操作Operationという概念に可逆性reversibleは含まれている。

 ・Internalizable=内部化可能 ・conserved=保存された(T666)  

 ・isolated=孤立した(T712)

 

資料2 

  滝沢(1994)によるピアジェのいう操作の意味

   操作=「1つの一貫した体系の中で相互に協力しあう可逆的な内面活動」

      滝沢武久(1994)「発達靴心理学辞典」(ミネルヴァ書房

  ここでも、操作という概念に可逆性は含まれている。

 

 では、ビアジェの「可逆操作」はどのような意味か。

 

ChatGPT要約5可逆操作reversible operationの意味

 

 「逆操作と相補操作が可逆性の本質的な形式」(要約)

 上記内容は田中自身が「基本的な可逆操作」の内容として紹介している。

 

「逆操作による可逆性 (reversibilite par inversion) と相補操作による可逆性 (reversibilite par reciprocit) に基いた諸反応=基本的な可逆操作」

 

 可逆性と相捕性の意味は以下のとおり。(資料4)

 可逆性=「元に戻せば同じ物体である」ということの理解

 相補性=は「物体のある側面(例えば長さ)が他のある側面(例えば幅)を補う」ということの理解

 

ChatGPT要約5.可逆操作の成立

「基本的な可逆操作は7〜11歳で成立」(要約)

   Basic reversible operations are mastered between ages 7 and 11

        711歳~具体的操作期(資料3)

 

資料3~滝沢(1994)による操作の発達は、次のとおり。

「感覚運動期」(0~2才ころ)~操作の起源は、対象に対して働きかける感覚運動的活動。やがてその活動は、可逆性をもつようになると同時に活動同士が供応しあうようになっていく。

「前操作期」(2~7才ころ)の思考~2才をこえる頃からその外的な活動が内面化されるにいたる。ただし、その内面的活動(思考)が、ただちに操作に転化するのではなく、最初はばらばらな状態で働くにすぎない。

「具体的操作期」(6、7才ころ~11、12才頃)の思考~6、7才ころになると、これらの内的活動はまとまり一貫性のある秩序だった体系の中で働くことになる。ものごとを論理的に考える基礎となる。ただし、その思考を具体的対象にしか適応できない。

「形式的操作期」(11、2才~)の思考~具体物から離れて言語的命題だけで思考できる。

資料4保存の概念【発達心理学】 - 心理学.com (hatenablog.com)

 

 保存の概念とは、「あるモノの見た目、外見が変わっても、そのモノの重さや数量は変化しない」ということを表すものである。

  ピアジェ 認知発達段階の第3段階である具体的操作期の子ども(711)は、この保存の概念を理解することが可能である。 しかし、前操作期(2~7歳)の子どもは対象物の見かけによって思考が左右される直感的思考を特徴とするために、保存の概念を理解しているかどうかをテストする保存課題に正答することができない。そのため、例えば「長さの長いビーカーに入った水を別の長さの短いビーカーに入れたら水の量はどうなるか」という問いに対して「水の量が少なくなった」と答えてしまう。

 これは、「ビーカーの長さ」という見かけの情報に思考が左右されてしまったために生じると考えられている。具体的操作期に入り、論理的な思考が可能になると保存の概念を獲得できる。また、保存の概念を理解するためには、可逆性、相補性、同一性を理解できるようになるからであるとされている

 可逆性とは、「元に戻せば同じ物体である」ということを表し、相補性は「物体のある側面(例えば長さ)が他のある側面(例えば幅)を補う」ということを、そして同一性は「その物体から何かを取り除いたり付け加えたりしていないので同じである」ということを表している。

 

 とりあえず、以上の予備知識をもってコマを次にすすめる。

 次回は、第4節 連続的進歩によって可逆性は成立するか。

 

英語(単語)学習の記録③ Categorize「~を分類する」と、extract「~を抽出する」

  Categorize「~を分類する」と、extract「~を抽出する」

                       山田優一郎(人間発達研究所会員)

 

 今回の教材は、1980年京都大学教育学部の研究紀要に掲載されている田中昌人の「発達における可逆操作について」という論文である。「人間発達の科学」では、197Pから収録されている。

 

 第1節の全文は以下のとおり。この文章のままでは、単語学習の教材としては、複雑であり、長文すぎる。そのためChatGPTに要約をお願いした。

 

参考資料

  1. 発達認識をすすめるカテゴリー

 こんにち,発達保障の立場からするカテゴリー研究に求められることの一つは,発達を科学 的に認識し,医療あるいは教育を含む発達保障を目指す実践活動を適切に行うための結節点となる基本的カテゴリーを抽出していくことである。これは発達保障の弁証法が発達の弁証法を科 学的に把握していく上で欠くことはできない。その際のカテゴリーに求められる要件や役割は次 のようになるであろう。 即ち,人間は,自然や人間社会,人類の文化遺産等の外界との相互関係において,それに働き かけ,取捨・撰択,吸収・継承し,新しい活動や産物を創出しつつ自分の本性を発達させていく。 つまり,マルクス (Marx,K.)の指摘するように,「人間は,この運動によって, 自分の外の自然 に働きかけてそれを変化させ, そうすることによって同時に自分自身の自然を変化させる」という二重の生産機制を基盤に社会的に存在し,個人の系として発達していく。そこでは,個人の 系としての発達は,関連する他の諸系の生成と相対的に区別された独自の内的合法則性を持って いる。従って,発達のカテゴリーはその内的合法則性の成立に寄与しつつ,他の諸系との間にその合法則性等を前提にした相互関係を発展させていく客観的内容を担わなければならない。その 際の基本的カテゴリーには,発達に固有な内的諸連関,特に,発達の原動力である内部矛眉の生 成を自己運動において発達連関的に認識し,それとの関連における内的・外的諸関係及びそれら に成立する諸法則性等を持った実在的世界を反映させることが求められる。複雑かつ高次の統合 をしているほど系の安定性と生産性が高く,自律性を持つので,それは単純なものに還元されな いが,基本機制において綜合化されたカテゴリーとして認識することは必要である。それによって,発達過程を漠然と認識したり,或いは機械論的に認識するのではなく,必然性,合法則性に おいて認識していくことができる。従ってローゼンターリ (Po3eHTaJib, M. M.) に基くならば, 基木的カテゴリーは,因果的に制約され,独自の内容と形式を持ち,固有の質的規定性と量的規 定性を具えて,時間・空間の中に発展的に存在する。又,対立物の統一を現わし,質的転化や弁証法的否定,その他必然性と偶然性の結合等を明らかにしていく。 これらの要件を具え,事実と論理に基いて発達認識の発展を助けてくれる基本的カテゴリーに 対しては,必然的に,論理的なものと歴史的なものとの統ーによって現実そのものの中で行われる移行の事実と論理に規定されるという柔軟性が要求される。現実の実在的な運動と発展や退行を表現する運動性,屈伸性,相対性,多様な弁証法的結合性等である。 それによって,基本 的カテゴリー以外の諸カテゴリーや諸過程,諸現象とも結合し,さまざまな連閃や発展において 相互制約性,移行,転化を可能にし, 人格の弁証法的充実から全体的発達”への機制を説明し, その実現に貢献していく。 これらの抽象と実践的還元の統一的発展によって, つまりレーニン (JieHHH, B. I1.) のいう 「生き生きとした直観から抽象的思考へ, そしてこれから実践へ」という真理認識の弁証法的過程によって,客観的に実在する発達の本質を把握していくことができ,低次の発達から高次の 発達までを,そして退行,老化の場合をも発展法則において認識していくことができると考える。 更に,対象との間に桓対的な独立性と相互の発展関係を持して,内部諸矛盾の外在化を求める実践を展開するための課題提起をしていくことができると考える。 こんにち,発達保障の研究を進めていくために,認識方法のカテゴリーであるとともに実践方 法のカテゴリーとしての役割を果すこれらのカテゴリー,特に基本的なそれに求められていることは,医療や教育等の弁証法が発達の弁証法との関係で相対的に独自の合法則性を持ちつつ内的 に結合し,医療や教育から非科学的,非人道的なものを払拭し,それらの分野が対象を統一的に認識し,諸科学を総合的に発展させていくようにすることである。それに貢献していく基本的カテ ゴリーを抽出し,科学的認識を発展させていくことが必要である。例えば,知能指数 (I.Q.) 等 に示される非発達的な側面を持ったカテゴリーについても,単にそれを否定し,それをもたらした事実をも拒否して終るのではなく,具体的事実及びそれと結ぶカテゴリーの進歩的側面を弁証法的に否定,あるいは再構成していく方法を明らかにし,新しいカテゴリーを把握することによって非人道的使用の側面に科学的,民主的規制が加えられるようにすることである。それによって非発達的カテゴリーを普遍の中の特殊な,さらにその一面として歴史的に位置づけることができる。そして,こんにちの歴史的制約の下における新しい方法やカテゴリーの不十分さ,限定性 を将来の実践と科学的研究の成果にゆだね,実践と認識のカテゴリー自身の発展をも希求していくのである

 

 Chatによる要約作業(①)によって、上記文章は以下のような簡潔な文章になった。田中のいわんとしたことが端的にわかる文章になっている。

 

➊発達保障の研究では、発達を科学的に認識し、適切な実践活動を行うための基本的カテゴリーを抽出することが求められる。❷人間は外界との相互関係を通じて自己の本性を発達させていく。➌個人の発達は他の系と相対的に区別された独自の内的合法則性を持ち、発達カテゴリーはその合法則性を前提に他の系と相互関係を発展させる。➍カテゴリーは発達の原動力である内部矛盾の生成を認識し、それとの関連における諸法則性を反映することが必要である。❺発達を必然性、合法則性に基づいて認識し、因果的に制約され、独自の質的規定性と量的規定性を持つカテゴリーを抽出することが重要である。❻これにより、人格の弁証法的充実から全体的発達への機制を説明し、実践に貢献する。➐発達保障の研究は、医療や教育から非科学的・非人道的なものを払拭し、科学的認識を発展させるカテゴリーを見つけることが必要である。➑例えば、I.Q.など非発達的側面を持つカテゴリーも、具体的事実に基づいて弁証法的に再構成し、科学的・民主的規制を加える方法を探ることが求められる。

 

では、グーグルによって英訳(②)していく。

 

①発達保障の研究では、発達を科学的に認識し、適切な実践活動を行うための基本的カテゴリーを抽出することが求められる。

①Research on development security requires the recognition of development scientifically and the extraction of basic categories for carrying out appropriate practical activities.

・security=名-保障・安全(T721)・requires=動を必要とする(T13)

・recognition=認識(T106) scientifically=科学的に

・extraction=抽出(T1138)・carrying out=実行する

・appropriate=適切な(T79)・practical activities.=実践活動

 

 発達保障は、development securityでいいのだろうか。何か安っぽい気がする。どこかで別の表現をみた気がするが、今の自分には訂正する力がないのでグーグルが訳したままにすすめる。

 

②人間は外界との相互関係を通じて自己の本性を発達させていく。

②Human beings develop their own nature through interaction with the outside world.

・beings=(動詞「be」の現在分詞)存在 ・own nature=本性

・interaction=名相互作用 interact=動影響しあう(T537)

 

③個人の発達は他の系と相対的に区別された独自の内的合法則性を持ち、発達カテゴリーはその合法則性を前提に他の系と相互関係を発展させる。

③Individual development has its own internal laws that are relatively distinct from other systems, and developmental categories develop interrelationships with other systems based on those laws.

・Individual=個人の(T82) ・relatively=相対的な(T28) 

・distinct=明らかに異なる(T582)・develop=動詞で展開する、の意味もあり。・interrelationships=相互関係(relation関係T28、ship名詞で「船」、動詞で「送る」) 参correlation=相関関係(T778)

  

④カテゴリーは発達の原動力である内部矛盾の生成を認識し、それとの関連における諸法則性を反映することが必要である。

④Categories need to recognize the emergence of internal contradictions that are the driving force behind development and reflect the laws in relation to them.

・emergence=発生(T305名詞) ・internal contradictions(矛盾T1412)=内部矛盾 ・driving force behind(3-498)=原動力 reflect=T221

 

⑤発達を必然性、合法則性に基づいて認識し、因果的に制約され、独自の質的規定性と量的規定性を持つカテゴリーを抽出することが重要である。

⑤It is important to recognize development based on necessity and law, and to extract categories that are causally constrained and have their own qualitative and quantitative determinants

・necessity=必要(性)(T199)・causally=因果的に 参cause=原因(T46名詞) 

・qualitative=質的な(T69) ・quantitative=量的な(T471) ・determinants=決定要因(名詞)

 

⑥これにより、人格の弁証法的充実から全体的発達への機制を説明し、実践に貢献する。

⑥This explains the mechanism through which dialectical fulfillment of personality progresses into holistic development, thereby contributing to practice.

・mechanism=仕組み(T890名詞)・dialectical=弁証法的(T463)

・fulfillment=充足感(T940名詞)・progresses=進歩(T278名詞)

・holistic=全体論の(T1879)・contributing=貢献する(T228) 

 以下、略。

考察メモ

 以上、①ChatGPTによる要約、②グーグルよる英訳したものを、さらに③グーグルによって和訳してみる。①と②により、他者に通じないことばはすでに排斥さている。③によって、さらに誤解されやすいことばも浮かびあがることが予想されるからである。

 グーグルによる英訳は、以下のようなものだった。

❶Research on development security requires the recognition of development scientifically and the extraction of basic categories for carrying out appropriate practical activities.

➋Human beings develop their own nature through interaction with the outside world.

➌Individual development has its own internal laws that are relatively distinct from other systems, and developmental categories develop interrelationships with other systems based on those laws.

➍Categories need to recognize the emergence of internal contradictions that are the driving force behind development and reflect the laws in relation to them.

➎It is important to recognize development based on necessity and law, and to extract categories that are causally constrained and have their own qualitative and quantitative determinants.

❻This explains the mechanism through which dialectical fulfillment of personality progresses into holistic development, thereby contributing to practice.

 上記文章をグーグルは、次のように訳した。

❶発展安全保障の研究では、発展を科学的に認識し、適切な実践活動を行うための基本カテゴリーを抽出する必要がある。 ➋人間は外界との相互作用を通じて自らの本質を発展させる。 ➌個人の発展は他のシステムとは相対的に異なる独自の内部法則を持ち、発展カテゴリーはその法則に基づいて他のシステムとの相互関係を展開する。➍ カテゴリーは、発展の原動力となる内部矛盾の発生を認識し、それに対する法則を反映する必要がある。 ➎発展を必然性と法則に基づいて認識し、因果的に制約され、独自の質的・量的規定要因を持つカテゴリーを抽出することが重要である。 ❻これにより、人格の弁証法的充足が全体的発展へと進むメカニズムが説明され、実践に貢献する。

 

 予想どおり、グーグルの和訳では普通はこう訳する、あるいはこうも訳せるということばもまじっている。そこて、グーグルの訳を要約の意味になるように修正 (④)した。

 結果は、以下のようになった。

 

➊発達保障をめざす研究では、発達を科学的に認識し、適切な実践活動を行うための基本カテゴリーを抽出する必要がある。

❷人間は外界との相互作用を通じて自らの本性を発展させる。

➌個人の発達は他のシステムとは相対的に異なる独自の内部法則を持ち、発達カテゴリーはその法則に基づいて他のシステムとの相互関係を展開する

➍カテゴリーは、発達の原動力となる内部矛盾の発生を認識し、それに対する法則を反映する必要がある。

❺発達を必然性と法則に基づいて認識し、因果的に制約され、独自の質的・量的規定要因を持つカテゴリーを抽出することが重要である。

❻これにより、知的発達と人格発達の統一的理解が可能になり、発達の全体的メカニズムが説明され、実践に貢献する。

 

 ①~④の作業によって、冒頭で紹介した難解な文章は、私でもさっと読めるわかりやすいものになった。ここで、上記基本カテゴリーをXとして、➊~➏の内容を整理すると次のようになる。

 ➊は、基本カテゴリーXを抽出することの意義、➋➌と➏は、Xの役割。そして、➍➎は、Xの要件ないし条件である。すなわち、Xは内部矛盾の発生を認識できるものであり、それに基づく法則が説明できるものでなければならない。また、発達の必然性を認識できるものであって、質的・量的規定性をもつものでなければならない。

 

 なるほど、このようなアイテムがあれば、アインシュタインもめざしたexplain=「説明する」に便利かもしれない。しかし、果たして、➍➎の要件(条件)を満たし、➋➌、➏の役割をはたすXそのものを田中はうまくexplainできているのだろうか。

 

 Categorize「~を分類する」と、extract「~を抽出する」

 ところで田中は、カテゴリーXをextraction=「抽出」するとしている。categoryは、名詞で「部類・区分・範疇」の意味であり、動詞は、categorize=「~を分類する」である。したがって、事象のカテゴリー化は、抽出だけでは終わらない。抽出したもの、あるいはすでに抽出されているものをcategorize、すなわち「分類」することが必要となる。いうまでもなく、田中にとってのXは、この文章のタイトルになっている「可逆操作」である。さて、「可逆操作」は、何を抽出し、抽出したものをどのようにしてcategorizeしたものだろうか。次節以降でわかってくるのかもしれない。

 

 次回は、第2節 「可逆反応、可逆変化と生体活動における可逆性の成立」

英語(単語)学習の記録② 発達の説明におけるdescriptionと、explanation

  発達の説明におけるdescriptionと、 explanation

                   山田優一郎(人間発達研究所会員)

 

 

 さて、グーグルによる本ブログ「はじめに」の続きの英訳です。(小文字は、私の単語学習メモ。番号は、私が学習しているテキストの語彙番号)

 

元服の始まりは、奈良時代

Genpuku dates back to the Nara period

なんと、「元服の始まり」をグーグルはGenpuku datesと訳した

 

③室井(2011)は、 全国調査によって15歳前後の若者に対していわゆる現代版「元服」が昭和の時代まで日本各地に存在していたことを明らかにしています。

Muroi (2011) revealed through a nationwide survey that a modern version of ``Genpuku'' for young people around the age of 15 existed in various parts of Japan until the Showa era.

 昭和の時代=Showa era.  revealed(T219) existed(T33)

 各地=various parts  現代版=modern version  全国的に=nationwide

・Through=~を通して。・Throughout(2-1099)=~の間中ずっと。

にたものことば。・thorough(T1480)=徹底的な ・thought(T57)=考え、思考

 

④「元服」を機に青年団などへの加入が許可され、大人社会への参加が認められてきました。 

On the occasion of ``Genpuku,'' they were allowed to join youth groups and other organizations, and were allowed to participate in adult society.

・occasion(T458) ・allowed(T8) ・organizations(T328)、

・participate (T332)

 

⑤今でも、義務教育を終え社会で働くことが許される年令は、15、16才です。

Even now, the age at which children are allowed to work in society after completing compulsory education is 15 or 16 years old.

・allowed(T8) ・completing(T40)・ compulsory(T1384) 

 

⑥中学校の始まりも、100年以上も前3)から、現在も12、13才。さらに江戸時代、寺子屋への入門は早くて6・7才4)5)でした。

Junior high school began more than 100 years ago , and even now children are 12 or 13 years old. Furthermore, during the Edo period, people could enter Terakoya at the earliest age of 6 or 7

・furthermore(2-297)=さらに ・ during=その間

 

 ⑦人間も自然の一部ですから、大人になるまでにいくつかの節目があり階層構造になっていることを人々がなんとなく気付いていたとしても不思議ではありません。

Humans are also a part of nature, so it is no wonder that people are somehow aware that there are several milestones and a hierarchical structure by the time they reach adulthood.

 ・somehow=なんとなく ・somewhere(3-896)=どこか(へ)

 

⑧しかし、なんとなくわかっていることでも、論理的に説明できないと本当のことにはなりません。

However, even if something is vaguely known, it does not become true unless it can be explained logically.

・however=しかし ・something =あるもの(3-198) ・vaguely(T1185)  ・unless(2-1299)

・explained(3-505)

 

アインシュタインは晩年次のように述懐しています。

Einstein recalled it in his later years.

・recalled(T325)

 

⑩「なんとなくわかるが、説明できないという真実を追い求めて、暗闇の中で手さぐりするような探求の年月」

``Years of searching, groping in the dark, in pursuit of the truth that I somehow understand but cannot explain.''

・groping=模索、手さぐり  ・pursuit=名-追求(T604) ・explain=説明する

 

⑫日本において、人々がなんとなくわかっていたと思われる人間発達の階層構造を子どもの観察と客観的なデータによって論理的に説明し、発達の「本当のこと」を追い続けた研究者がいます。

In Japan, there is a researcher who logically explained the hierarchical structure of human development, which people seemed to have a vague understanding of, using observations of children and objective data, and continued to pursue the ``reality'' of development.

・seemed to=ようだった ・using=を使用して(T776) ・observations(T718) 

・objective(T37) ・continued(3-603)  

 

⑬そのひとりが京都大学の田中昌人(1932~2005)でした。

 One of them was Masato Tanaka (1932-2005) of Kyoto University.

 

考察メモ

 

 田中は、「人間発達の科学」(1880)において、ワロンのピアジェ批判を次のように紹介している。

「ワロンは、ピアジェの理論が記載であって、説明ではないことを厳しく批判してきた」

 上記文章をグーグルは、次のように訳した。

Wallon has severely criticized Piaget's theory for being a description, not an explanation.

 

 descriptionと、explanationは、どうちがうのだろう。英語初心者の私が調べた感じでは次のようになる。

 

 description,の動詞は、describe=「記載する」であり、xplanation.の動詞は、前述のexplain=「説明する」である。そしてアインシュタインが探求し続けたのは、後者explain=「説明する」であった。

 

 explainは、接頭辞ex=「外に」と、形容詞のplain=「明らかな~」で構成されている。一方、description=記述・描写を意味しており、そこには、「明らかな」や「外に」の意味は含まれていない。自分宛てでもいいのであるから成長の記録や日記も含まれる。成長や観察の記録、「~ができる」、ある日の興味あるできごとなど、この段階ではまだ「普遍」といえるほどの「the truth」真実(アインシュタイン)にはならないということなのだろうか。

 

 上記のようにワロンは、ピアジェの発達理論を、explanationではなく、descriptionだと批判した。そして、田中もビアジェを次のように批判した。

 

「可逆性の成長の記載はあっても、可逆性の発達の説明はない」

 Although there is a description of reversible growth, there is no explanation of reversible development

 

 アインシュタイン、ワロン、田中がめざしたexplain。

 では、「説明できた」といえるためには、何が必要なのだろうか。

 

 次回以降「人間発達の科学」の一部をグーグルで英訳し、そこで登場してくる単語を調べながら考えてみたいと思う。最初の教材は、197P「発達における可逆操作について」を予定。何か新しい「the truth」(真実)に出会えそうな気がする。

 

 

英語(単語)学習の記録① その日は突然やってきた  

           その日は突然やってきた                        

                     山田優一郎(人間発達研究所会員)                                           

 私は、英語が全くできない。高校は入学したのだから、中学校卒業程度のことは知っていたと思うのだが、もうあれから50年も経つ。現在、私は75才、後期高齢者になったばかりである。

 

 昭和30年代、私の島(鹿児島県沖永良部島)では自分も含め中学校で辞書を使っている子はいなかったような気もする。高校でも辞書をもっていたのか記憶がない。高校卒業後は就職を予定していたので、高校で何を勉強したのか記憶がない。

 中学校で習ったことでも、忘れていることも多いから、おそらく単語の知識は中学1~2年生というところだろうか。

 ところが、ひょんなことから、英語を勉強してみようかという気になった。それは、ネットで成人になっている自閉の子の「自傷行為」を目にしたことがきっかけだった。

 細身の体で自分より大きな息子の自傷をとめようと格闘している母親の姿は、気の毒でしかたなかった。ほんとうになんとかならないものだろうか。いったい、人はなぜ自分を傷つけるほどの行動をするのだろうか。

 私にとって「自傷行為」は見慣れていることではあったが、その青年が自分の部屋でひとりでいる時に自傷をはじめ、それを止めるためにかけ出す母親の姿をみて、「そんなこともあるのか」と、心が動いた。というのも、私たちの実践の結論は次のようになっていたからである。

 

 シン君の「自傷」もすさまじかった。それを止められとますます激しくなって、止めるほうともども、パニックにおちいった。シン君は、当時、中学部1年生の男の子だった。

 障害は、「脳性マヒ」「知的障害」。歩行開始は2.8才。ことばは、まったくなかった。

 ブランコが好きでそれができない時は草や本を触って、感触遊びをしていた。そして、1日に何度もオシッコの失敗があった。不安定な歩き方であったが、歩くことは何とかできたし、機嫌のいい時はひとりでジャンプして遊ぶこともできた。発達検査では、ことばの指示によって、目、鼻、口など体の部位をさわることも、身近な物の絵を指さすこともできなかった。

 シン君の「自傷」の内容は以下のとおりである。

 ・掌でほほをたたく。

 ・ゲンコツであごをたたく。

 ・床や壁に頭を打ちつける。

 

観察(トイレ前での「自傷」)

 教師が近づき大きな動作で声をかけてきた。その状況で彼は立ち上がった。きっと、ブランコへ行けると思っていたのだろう。だから、機嫌よくついてきた。トイレの入り口にきて、廊下とは違う床、男子便器が見える見慣れた空間に気付き、そこがどこであるかがわかった。その瞬間怒りがわいてきた。

「なんだ。ブランコじゃないのか。いいかげんにしろ」

「怒りの自傷」が始まった。

 

観察3(校門前での「自傷」)

 ここでは、教師からもっとひどい仕打ちを受けた。今度は、トイレを素通りし玄関まできた。そして靴をはきかえた。この状況で今度こそグランドに出てブランコに乗れると思ったに違いない。だから、玄関を出るとブランコのほうへ小躍りしながら向かった。しかし、事もあろうに「そこ違うよ」と止められたのだ。そして、校門近くにくると門があり、門扉があり、その向こうに道路が見える。この状況でブランコには乗れないことを察知した。今度こそ「いいかげんにしろ。ブランコじゃないのか。ややこしいことをするな」と「怒りの自傷」が始まった。

 

 このような私たちの側の伝達不足と子どもの側の思い違いからくる「怒りの自傷」。これをどうするか。私たちは、当時彼が受け取れるメッセ-ジ、私たちが彼に伝えることができるメッセ-ジを「環境言語」(以下「環境語」)とした。トイレの丸い入り口、廊下とはちがった床の色、見慣れた男子便器、独特の臭い――これらすべての環境全体から、彼は「トイレ」というメッセ-ジを受け取った。校門の門、大きな門扉、向こうに見える道路、そこへ向かっていく集団――これらの環境全体を把握して彼は、ブランコではなく外へ出ていく活動だと気がついた。だから「自傷」した。ならば、私たちも環境全体で彼にメッセ-ジを送ろう。これが私たちのいう「環境語」誕生の瞬間だった。

 

 自傷」場面における彼の内面をさぐっていく過程で構想された「環境語」は、その後も事例が追加された。たとえば、給食前にエプロンをかけると彼はニコッと笑うことがあった。いつもではなかったから、エプロンだけでなく、すでに給食準備をはじめている隣の教室からのおいしそうな臭い、みんな給食室に出かけていなくなった教室、そしてエプロン―――このような環境の全体を把握して彼はこの直後にくる楽しい時間、「給食」というメッセ-ジを受け取った。

 

 しかし、「環境」でメッセ-ジを伝える私たちのとりくみはツメが甘かった。どこまで具体化されたのか記憶がない。ただ、ブランコ行く時と外へ出かける時、出口をかえる、それだけで「環境語」となり、「怒りの自傷」は減少する。その程度のことはしたような気もするが定かでない。ほかにも行き先を知らせるために何かも持たせるなど、いくつかあったような気もする。

 ともあれ、シン君の声を聞くだけで彼の自傷は6ケ月後に半減した。「環境語」の具体化がもっとすすんでいたらもっと減少していたかも知れない。1)

 

 以上の私たちの実践からは、回りの大人が彼の内面を察知し、彼が大人たちの意図を理解することができれば「自傷」は、おきようがないのではないかと推測されるものだった。つまり、発達の段階論で説明できるものだった。しかし、ひとりでいる時に、自分の部屋で自由にすごしている時にも、自傷を始めるとなると、上記推測は「ほんとうのこと」ではないかもしれない。

 

 何か手がかりが欲しい。私は、「自傷行為の実態について」(国士館大学21世紀アジア学研究11号(2013)という論文を取り寄せてみた。一応、日本語で書いている部分は読めたのだが、もっとくわしく知りたいところ、引用がすべて英語なのである。

 

 これでは、もう、手も足も出ない。出典論文の入手方法はもちろん、論文のタイトルさえ読めないしわからない。どうしたらいいのだろうか。

 しばらく考えているうちに、もう、ひとりの自分がささやいた

 

「いっそのこと、英語を勉強したらどうや?」

 

 死ぬまでにはもう少し時間はありそうだ。いや、そんなにないかもしれない。しかし、わからない世界へ足を踏み入れるのは、何か楽しそうな気がした。

 幸いなことに今までの実践において、ことばの獲得で何が大切か、何年も考えてきたし、すっかりいくつかの法則が身についている。

 この年齢になって、自分を対象に実践の続きができる。それも楽しみなことだった。

 

 2024年3月。英検4級の単語テキストが届いた。案の定、2割ほどは知らない単語があった。しかし、すくにクリアし、3級に進んだ。3級は5割ほどの知らない単語であったが、3月中にクリアした。4月から2級にすすみ、4月末には2級もクリアした。

 ことばの学習やサインの学習と同じような方法で学習をすすめた。クリア(一度めの記憶完了)したというのは、単語をみて、自分なりの方法で読めて、意味がわかることである。

 

 しかし、それだけでは使えない。私たちの実践では、ことばやサインを教室の中の学習場面でいえるようになっても、生活で使えるようになるまでには距離があった。

 私たちは、前者を「教習所の中での運転」とし、後者を「路上運転」とした。両者は区別し、前者が先であったが前者だけでは、生活の中でことばを使うことにはならなかった。前者にはカ-ド(現物)や教師の声かけという手がかりがあり、後者にはそれがないからであり、学習場面において空間は一定であるのに対し、後者においてことばが必要な空間は、複雑であり、刻々と変化しているからである。

 なので、「路上運転」の学習が導入されてやっと、子どもたちのことばやサインはコミュニケーション手段になった。2)

 

 2級が終わったところで私の英語学習にも「路上運転」が必要だと考えた。

 5月の連休あけ。単語学習は、旺文社の「英単語ターゲット1900」に進んでいた。その中で次の単語が出てきた。

 

 Hierarchy=階層

 

 もちろん、私にとっては、初対面である。発音をチエックした。「階層」は、こんな表現をするのか。いったいこの単語はどんな使われ方をしているのだろう。

 そこで本ブログ「階層と段階の視点①」「はじめに」で引用したあの文章がさっと頭に浮かんだ。

 

「人間社会のありとあらゆるところには、自然発生的あるいは人為的な階層構造が形成されている。この社会の階層構造と同じように生物・非生物を問わず自然界にも自発的に形成される階層構造が多く存在している」坂口秀、草野完也、末次大輔(2008)3)

 

 上記文章をグーグルで英訳してみた。

 

Hierarchical structures, either naturally occurring or artificial, are found everywhere in human society. Just like social hierarchies, there are many spontaneous hierarchical structures in nature, both living and non-living.

 

 何とこの中で私が知らない単語は、spontaneousだけだった。多くの人は、この程度の文章で、と思われのかもしれないが、自分にとってはびっくりの事件であり、数ケ月前の自分とは、違った自分になっている気がした。

 俄然おもしろくなってきて、私は、続く次の自分の文章もグーグルに英訳をお願い (笑)した。

 

①歴史をひもとくと、人々は昔から人間が子どもから大人へと育っていく間にいくつかの節目があることに気付いていたことがわかります。

 

If we look back at history, we can see that people have long been aware that there are several milestones in the growth of humans from childhood to adulthood.

 

 私の記憶の倉庫にストックされていたaware、やseveral、growth 、childhoodは、こんな使われ方をするのかと納得した。ここではmilestonesだけが、私の単語帳にストックされていなかった。

  spontaneous  =自然に出てくる、自発的な英辞郎 on the WHB」

  milestones=〔歴史・人生・計画などにおける〕画期的出来事[事件]、節目、重

        要なポイント英辞郎 on the WHB」

 

  このふたつの単語は、さっ速、記憶対象の単語帳に加えた。ひょっとしたらこれからのターゲットに出てくのかもしれない。

 グーグルの訳の1割程度は、誤訳があると報道されている。 上記のグーグルの訳が適切なのかどうか、それは、今の私の力では皆目検討つかない。しかし、この方法でとりあえず、英語学習の「路上運転」が楽しくできることがわかった。自分の文章の英訳なので記憶されている単語の使われか方がすぐわかる。

 

 さて、①に続くブログの文章は、次のとおりである。

元服の始まりは、奈良時代

③室井(2011)は、 全国調査によって15歳前後の若者に対していわゆる現代版「元服」が昭和の時代まで日本各地に存在していたことを明らかにしています。

 

  グーグルが「奈良時代」をどう訳するのか、「元服」をどう訳するのか、私には、想像もつかない。

 

[引用・参照文献]

1)山田優一郎・國本真吾(2019)「障害児学習実践記録~知的障害児・自閉症児の発達とコトバ~」合同出版

2)1)に同じ

3)坂口秀、草野完也、末次大輔(2008)「階層構造の科学~宇宙・地球・生命をつなぐ新しい視点」.東京大学出版会

 

読んでいただいた皆さんへ

※この実践は、自分を対象にしています。したがって、卒業がなく永遠に続きます。一方、誰もが高齢になってくると何らかの障害を負います。継続が困難になった場合は、予告なくこの連載は中断(打ち切り)となります。

※このブログ(日記)のアップは、不定期です。

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