発達保障をめざす理論と実践応援プロジェクト

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階層と段階の視点⑪ 対称性の原理によって説明できる 「生後第2の新しい発達の原動力」

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 「生後第2の新しい発達の原動力」を対  称性の原理で説明してみた

                     山田優一郎(人間発達研究所会員)                

 

「私たちが法則を発見できるのは、自然界に対称性があるからだが、それだけでなく、自然のもつ階層性のおかげである。」(板東昌子1996「物理と対称性」みすず書房

 

 対称性と「破れ」の原則は、「破れ」る前の対称性を予測可能にする。すでに明らかになっている「階層-段階理論」における階層内の法則に従い、ここでは、「対称性を仮定していく方法」(加藤2017)1)で「生後第2の新しい発達の原動力」について検討した。結果、①田中によって発見された10ケ月頃に発生する「生後第2の発達の原動力」は、対称性の「破れ」としても説明できるものであった。②「破れ」によって発生した「生後第2の発達の原動力」は、次の階層(次元)まで保存され、次の階層で発達を主導する力(可逆操作)の基礎になっていることが確認できた。③上記作業によって、連結の階層、第3段階の「可逆操作」の基本操作、媒介、産物を仮定することができた。

 

 使用した物理学上の定義は、以下のとおり。物理学でいう「変換」は、子どもに対する回りからの一般的な働きかけであり、「可逆操作」は、子どもから外の世界へ働きかける活動である。

 

定義1 「対称性」2)自然法則の対称性は、ある対象に対してある変換を行った時、その自然法則が変わるか変わらないかであり、変わらない時、その法則は対称性をもっていると言う。

定義2 「対称性の破れ」3)=「対称性が壊れている」「対称ではなくなる」という意味である。

定義3 「並進対称性」4)=空間の並行移動という変換を行っても法則は変わらないことをいう。例)東京で実験をやろうが大阪で実験をやろうが物理の法則は同じ。

 

1.階層と段階の視点によって、対称性の発生(対発生)の時期と「破れ」の時期はすでに明らかである。すなわち、新しい発達の力は、各階層の第2の段階の対発生にはじまり、その段階の終りに「破れ」が生じ新しい発達の力が誕生する。

 

2.赤ちゃんにたいする「バイバイ」にあたる語は、世界110ケ国以上に存在する。バイバイは赤ちゃんが積極的に大人と交流を実現する世界共通の事象である。そして、

世界の研究者たちは、「バイバイ」の獲得を「9ケ月越」であるとしている。

 

 「バイ・バイ」に反応(9ケ月越)~バイバイという言葉や身振りに対して、声や動作で反応する。5)

 

 s=主体(赤ちゃん)、a=大人としたとき、大人からの働きかけを受け止めて、そして、相手に意思を届ける活動の関係は、次のように対称性をもっている。

  s――a

 

 赤ちゃんと、大人との関係におけるs――aの法則は、保育園でも、田舎のおばあちゃんの家でも発揮され、空間を選ばない。したがって定理3の並進対称性があるといえる。

 

3.やがて、対称性の「破れ」によって、新しい力が発生することが予想される。すなわち、「破れ」によって、s――aの法則でない別の法則が働く。

①田中(1988)6)は、10ケ月頃に発達の新しい力が発生するとした。

②ウェルナ-(1974)は、ことばの獲得のまえに幼児と母親、対象物の間に「原初的な共有状態」7)(「三項関係」)8)が生ずるとした。P=対象物9)としたとき、s――aの法則は、ここで次のように変化する。

            

                    

                           

③標準化された発達検査は、ウェルナー(1988)のいう三項関係の成立を10ケ月越としている。

 

 「指さしに反応」(10ケ月越)~検査者の指さしに反応して、指さしたほうを見る。10)

 

4.すでに内訳が確定している1次元可逆操作期は、「ことばを認識できる力で、大人との交流活動よって、新しいことばを獲得していく」時期であった。したがって、1次元可逆操作においては、L=ことば(手話などを含む)とした時、三項関係は次のように変化する。      

              

 

5. 田中(1987)は、10ケ月頃に発生する新しい力を「第2の新しい発達の原動力」とした。発達の原動力には、「そこに生ずる子どもの内的矛盾をのりこえようとしてとりくむ能動的活動」11)というすでによく知られた定義が存在する。したがって、先に定義されている意味と異なる意味に使う時は、使う側に説明責任が生じる。そうでないとよく知られた定義どおりに理解する他者とのコミュニケーションが成立しないからである。

 以下検討する発達の原動力は、上記、子どもが外の世界との関係で生じる原動力ではなく、子どもの個体内部で次への発展を引き起こす原動力のことである。

 生後第3の新しい発達の原動力について本ブログでの説明は、以下のとおりである。

 

 ①発達の原動力は、各階層の第3段階への移行をひきおこす。②各階層の第3段階において、新しい交流の手段が獲得される。③新しい交流の手段は、次の階層において「発達を主導」(「理論」P79)する。

 なぜ「新しい」がつくのか。新しい発達の原動力がひきおこす、各層第3の段階において「新しい」交流の手段が獲得されるからである。そして、新しい交流の手段こそが、次の階層で発達を主導することになるからである。

 「新しい」がつく発達の原動力は、成人までの間に4回発生することが田中によって発見されている。

 

 果たして、生後第2の新しい発達の原動力は、次の階層(次元)の発達を主導することになっているのだろうか。以下検証する。

 

①ウェルナー(1974)は、対象が共有されるような対人関係の中では、〈触れて示すために手を伸ばす〉という行為と人にいわれたものを〈見るために体を向ける〉という行為の中には密接な類比関係があるとしている。そして、人からいわれたものに体を向けるという運動が、指示活動に利用されるようになると、完成した指さし行動までほんの僅か(ウェルナー1974)なのである。要するに、s・a・pの三項関係の中で対象に手を伸ばしたり、触れたり、そのものの方を向いたり、といった活動は、すべて最終的には「指さし」になる。そして「指さし」こそが次の階層への入り口(「絵指示」12))であった。したがって、s・a・pの三項関係ぬきには、次の階層へすすめない。子ども(s)は、大人(a)と対象(p)を共有する活動の中でことばの意味を汲み取って13) 「指さし」によるコミュニケーションを可能にしていく。以上の結果、s・a・pの三項関係は、連結の第3段階まで保存され、次元階層への先導役を果たしているといえる。

 

②子どもは、1才半頃にことばを話し、二足歩行をし、道具を使う。ヒトから人への第一歩である。だから、人間にもっとも近いチンパンジーと比較することによって、この時期の発達の特徴がわかる。友永(2011)14)は、「チンパンジ-の母親は、『自己-他者-物』の三者関係を構築するような積極的な働きかけを子どもに対してすることはほとんどない」とし、山本(2011)15)は、チンパンジーには「積極的に教える教育がみられない」「手取り足取り教えることはない」としている。

 しかし、人間の大人は、幼児と接する時、本性として、子どもの一言に「そうそう」と頷き、ほほえみ、頭をなでては「かしこい」とほめ、「これは何々」と教え、できないことはことばといっしょに手をそえて教える。

 以上のことからわかるように、人間の子どもは、「大人とのコミュニケ-ションが発達するにつれて、子どもの一般化も拡大する」16ヴィゴツキ-・1979)ことば(一語文)を頭の中で操れるようになった子どもたちが、その力を拡大するのは、「大人との交流活動」によってなのであり、新しい階層「次元」でも、s・a・pの三項関係は、保存され、ことば拡大の条件となっている。

 

③一語文のひろがりは、やがて二語文へと進む。二語文の獲得は「おおきい、ちいさい」「ながい、みじかい」「きれいな、きたない~」など「対」、ふたつの世界をひろげながら進んでいくことになる。ふたつの世界は、常に相対的なモノの比較である。人間であるボクは象さんよりは小さいのだが、アリさんより大きい。ふたつの世界は、今、そこには存在しない象さんやアリさんとの比較の上に成り立っている。これまでを具体的な事象とことばが直線で結びつく「具体世界」とすれば、4才の節を越えた時、もうひとつ(2次元)の世界、今現実には与えられていない世界を頭の中で思い描くこと、すなわち「想像」の世界を完成させる。その際、コトバこそが宇宙の果てまで認識をひろげるツールであり、この時期から、子ども(s)は、コトバによって、たくさんの人(a)とコミュニケーションし、事象(p)について認識をひろげていくことになる。したがって、ここでも、s・a・pの三項関係は、保存され認識を広げるために必須の道具となる。

 

 ただし、2次元可逆操作期以降、コトバ・人・モノは、永遠に続く直線であり、対称性は失われ、以降は対人・対物交流系における「破れ」は生じない。結果、コトバは不可逆的に獲得されることになる。そして、2次元可逆操作期の終りに「第3の新しい発達の原動力」が、変換の階層へのパスポートとして発行される。

 

 以上のことから、田中(1988)のいう10ケ月に発生した新しい発達の原動力(s・a・pの三項関係)は、次元の階層まで保存され、力を発揮していることが確認できる。(図1)

                  図1     

                                             

3.まとめ

①前述のように物理学は、自然現象を学問の対象としている。人間も、自然の一部であり、人間の発達も、物理学が明らかにしている一般法則によって説明可能である。ここでは、田中(1987)が発見した「生後第2の新しい発達の原動力」の発生を「対称性の破れ」によって説明した。

②「生後第2の新しい発達の原動力」が次の階層で発達を主導する力になっているかについて検討した。結果、10ケ月に発生した新しい力は、2次元可逆操作期まで保存され、発達を主導する力(可逆操作)の基礎になっていることが確認できる。(図1)

③以上の作業によって、連結の階層の第3段階の可逆操作の基本操作、媒介、産物は、表1のように仮定できる。

                  表1

[参考・引用]

1)加藤聡一(2017)「可逆操作の高次化における階層-段階理論」における3つの法則性の区別と連関.「人間発達研究紀要」第30号

2)小林誠(2009)ノーベル受賞記念講演~対称性の破れとは.「学術の動向」弟14号6号

3)前掲2

4)前掲2

5)嶋津峯眞監修生澤雅夫編集者代表(2003)「新版K式発達検査法」.ナカニシヤ

6)田中昌人(1988)「子どもの発達と健康教育①」.かもがわ出版

7)ウェルナー著柿崎祐一監訳(1974)「シンボルの形成」.ミネルヴァ書房

8)岡本夏木ほか監修(1994)「発達心理学辞典」.ミネルヴァ書房

9)P=ポイエ-シス~外に所産を生み出すプロセス(アリストテレス

 塚本明子(2008)「動く知フロネーミス~経験に開かれた実践知」ゆみる出版

10)前掲5

11)大村恵子(1976)発達の源泉と原動力.心理科学研究会編「児童心理学試論」.三和書房

 発達の原動力は、「そこに生ずる子どもの内的矛盾をのりこえようとしてとりくむ能動的活動である」

12)前掲5

13)前掲8

14)友永雅己(2011)松沢哲郎編「人間とは何か~チンパンジー研究から見えてきたこと」.岩波書店

15)山本真也(2011)「チンパンジーと人の共通点・相違点~社会的知性を中心に」.京都大学人文學報(2011)100 

16)ヴィゴツキ-著柴田義松訳(1979)「思考と言語」上.明治図書